カズヤ・マリナ・トモヤ
カズヤはどこにでもいそうな高校生だが、少しガラが悪い。
海印寺地の高い学校に入学できたのはAO入試を受けたおかげで、本来はマリナやトモヤと同じ学校に通うだけの学力を持ち合わせていなかった。
バスケットボール部のエースだったが、二年の夏に顧問と喧嘩をして退部している。
その頃から素行が悪くなった。
バスケットボールで発散していたストレスが行き場をなくし、無作為に溢れ出ていたのだ。
心配した親は彼を塾に通わせた。
塾に通いだし、ストレスが増すことによって彼の素行はますます悪くなった。
近所の小学校に侵入してチャボをくびり殺したこともある。
典型的なワルガキだった。
一方で学力は塾通いの甲斐あってぐんぐん伸び、数学ではマリナに、英語ではトモヤに引けをとらないまでに点数をとるようになった。
国語だけはどれだけ問題集をこなしてもダメだったけれど、それを補って余りある点数を理数科目でとっていたので、受験に落ちる心配はまずなかった。
ある科目が全滅でも別の科目で補っていればいいという点数教育が産んだ闇である。
不良、元バスケットボール部だけあって体力は並外れたもので、体育館で行われるエンドレス・ラン(一列になって館内を周り、先頭の者は全力で走って列の最後尾につくのを繰り返す)では校内随一の記録保持者だった。
何せ朝に初めて昼ごろまで走り続けていたくらいである。
頬の傷は小学生の時分にやっちゃしたときに出来たもので、うんていでふざけていて落ちたのが原因だ。
おそらくは平時であっても寿命は短かったであろうタイプの人間だった。
トモヤとマリナは幼稚園の頃からの同級生だった。
高校から一緒のカズヤとは違い、この二人は仲がいい。
校内では付き合っているともっぱらの噂になっていたが、付き合ってはいなかった。
トモヤは部活動こそやっていなかったものの、中学時代はサッカー部に所属しており、ボランチポジションにいた。
今でもサッカー好きで、メッシに似せてもらったという髪型をしている。
顔の作りもどことなくメッシに似ている。
メッシとジダンを足してニで割ったような顔である。
数学の成績がずば抜けて良く、校内で定期的に実施される学力調査テストでは、数学だけ偏差値60を下回ったことはない。
数字が書いてある紙を見つめているだけで一日暇を潰せるという変態である。
好きなドラマはNUMBERS。ありきたりで面白くない。
NUMBERSの主人公と似て天然パーマである。
マリナは尋常ならざる美少女だ。
たとえば美少女を五人並べ、誰が一番の美少女かとアンケートをとっても、過半数は彼女に投票するだろうという勢いの美少女だ。
そんな彼女には黒歴史があり、中学時代に学園祭でボヘミアン・ラプソディを歌ったことだ。
英語が好きだった彼女は意気揚々と披露したのだが、女子中学生に似合う曲ではなかったし、曲調がころころ変わるので見ていた人はついていけず、中学生にありがちな心なさも加わって、卒業までクイーンとアダ名で呼ばれていた。
本人はなぜ自分がクイーンと呼ばれていたのか、今でもわかっていない。
王妃の意だと思っているようだが、それは違う。
三人にとっては、狭い自治区で夏休みを過ごさなければならないのは酷く苦痛のようだ。
マリナはしきりに海へ行きたいと言った。
トモヤはNUMBERSが観られないので文句を言った。
二人と比べてカズヤの家柄は悪いので、二人ほど郷愁にとらわれることはなかった。
しかし三人の中で最もアルファ米を嫌っているのは彼だった。
アルファ米は非常食の中でも日本人向けに改良された贅沢な食べ物ではあるが、食べ盛りの男子が美味いと言って食べるものではない。
302人という人数で分配するので、量的にも問題があった。
労働に対して摂取カロリーが少ないので、高校生の三人はどんどん痩せていった。
痩せれば体力が落ち、日々の日課をこなすのが辛くなる。
かれこれ一月ほどというとあまり長期間に感じられないが、高校生にとってはここらが潮時、限界だった。
カズヤ既に離反のための人員を揃える動きを始めている。
友人であるトモヤ、マリナも裏で協力して、ガソリンなどを集めている。
すべては西方の理想郷を目指すためである。




