ゾンビの賢い撃退法
渋谷区連合の主な戦闘法は人海戦術である。
隊列を組み、鉄パイプや手製の槍で武装した大人数で、小規模のゾンビをタコ殴りにする。
中規模以上のゾンビに遭遇した際(そんな機会は滅多にないが)は、敵の戦力を分散させたうえでタコ殴りにする。
建築現場に大量に残されていたアルミ材や鉄材は、ゾンビを退治するのに非常に役立った。
折れたり曲がったりしても新しいのを使えばいい。
稀に分散に失敗して、複数のゾンビを相手にしなければならないときは、ガソリンを入れた火炎瓶で対処した。
これなら直接殴るより早く敵を無力化できる。
確実に当てるためにはそれなりに接近しなければならないのが欠点だったが、失敗してもカバーできる人数が揃っているので、事故にはならなかった。
自治区が設立して間もない頃は、まだ多くのゾンビがいた。
完全にというわけにはいかなかったけれど、大部分のゾンビを自治区外に排除できたのは、人海戦術が功を奏したおかげである。
分隊制度が自治区で採用されてからは、統率に一層の磨きがかかり、中規模のゾンビ集団であれば分散なしで退治できるまでになっていた。
だから上層部の拳銃が活躍する機会はなく、権力を誇示するためだけの道具と化していたのだ。
都心には郊外と比べて多くのゾンビがいた。
自治区が一度新宿区に遠征隊を派遣した時には、超規模のゾンビ集団に為す術もなく撤退せざるを得ない状況となった。
それ以降、自治区では積極的に遠征することをやめ、やむを得ない場合にのみ外部に人を送った。
銃火器のない彼らがどうやってここまで生き延びたかというと、西側にいた手長足長や、怪物のようなゾンビの力量を超える敵が、都心部には生息していなかったからである。
もし手長足長の一体でも生息していて、彼らと直接戦闘になれば、鉄パイプでは対処しきれなかったことだろう。
運良く撃退できたとしても、かなりの犠牲を払うことになったはずだ。
怪物については言うまでもなく、自治区の半数を犠牲にしても退治できるかどうか怪しい。
ちなみにここ渋谷区では例の霧は一度も発生していない。
302名の渋谷連合メンバーは、持ちうる力の最大限を駆使して日々を生き延びている。
少しでも気を抜けばたちまち集団は統率を失ってバラバラに行動して、大惨事となるだろう。
その兆候は既に若者たちの中にある。
女たちはニートの言うこと聞くのが嫌で、可能なら逃げ出し自分たちだけで生活したいと思っている。
下級メンバーに属する中年層も同様に反感を抱いているが、別段自分から何かをしようという気はない。
すべてが微妙なバランスの上に成り立っていた。




