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五人のニートは未来を憂う

本来は局の重要人物が使用していたであろう会議室に、今は五人のニートが集って談義している。

上座には最年長者である丸園大五郎まるぞのだいごろう、その横に真島賢治、西川治之にしかわはるゆきと続き、対面して木村正木、新島六郎にいじまろくろうが座っている。


彼らは全員ニートなので、顔特徴は似通っている。

精気のない目に色白の肌、伸びきった髭と髪。

他のメンバーは物資が乏しい中でも身繕いには細心の注意を払っているというのに、無精者の彼らは外見には一切の注意を払わない。


逆にその態度が仙人じみているので、他のメンバーからはこの五人が集まって会議することを「仙人会議」と呼んだり、あるいは「長老たちが談合している」と称していた。

最も若いはずの木村ですら、髭の髪のせいでアラフォーに見える。


五人の側には一人ずつ女性が立っているが、彼女たちはこのニートたちの側室ではない。

まず彼らにそんな度胸はなく、こんな時勢でも女性と一対一で喋るとなると緊張して上手く口を動かせないのだ。

それではなぜ女性を侍らせているかというと、クーラーの効かない部屋でも涼しく会議できるよう、それぞれに団扇うちわを持たせて扇がせるためだった。


その光景は一見してエジプトの王たちが話しているのと似ていなくもない。

髭の装いからすると、ギリシャの哲人が哲学に耽っている様と言ったほうが近いか。

上級メンバーに囲われている、中下級との伝令役である男が会議室に入ってきて、報告する。


「遠征隊の報告によると、山手線の外縁部をぐるっと一周する形で、ゾンビの密度が高まっているそうです。ヘリコプターが誘導した新宿以西のゾンビは、思惑通り西方へ移動しましたが、数の程は不明。現在でも相当数のゾンビが街には潜伏しています。また、西方に去ったゾンビが引き返してくる可能性を、PARCOメンバーの一人が指摘していました」


報告を終えた男は、ニートたちに一礼して部屋を出る。

彼はもともと薬剤師だったのが、ニートに頭を下げる身分に落ちるとは嘆かわしいことである。


「嘆かわしいですな。どこもかしこもゾンビ、ゾンビ。この様子ではコミケも中止でしょう」

風貌にそぐわない甲高い声で、西川が言う。


「コミケなんざどうでもいい。問題は、西にいる武装集団が敵か味方かってことだ」

木村は自分の担当である遠征隊長の任を意識して言った。


「俺もそいつが気になってる。下級の奴らはアレがアメリカ軍だと噂しているらしいが、アメリカ軍だとしたら何のアクションもないのはおかしいぜ。ぶっ放すだけぶっ放して、連絡なしなんてことがあるのか?」

真島は木村の肩を持つ。


「そうやいのやいの好き勝手に発言しなさんな。今回の議題は西方の武装集団ではないし、ましてやコミケなんぞではない。我々302名の行く末を決めるのだよ、諸君」

年長者の丸園が貫禄たっぷりに言うと、それまで好き勝手に発言していた全員が一斉に黙った。

貫禄たっぷりではあるが、丸園もれっきとしたニートである。


「必要物資は地下に貯蔵してある。これだけの人数だからどのくらいもつのか分からんが、しばらくは平気なはずだぜ」

真島が言う。


「真島くん、僕は当面のことを言っているのではないのだよ。我々は302名の命を預かっている身だ。当然、彼ら302名を未来永劫、最後の一人が寿命尽きるその日まで面倒見る義務がある。そこで聞いているのだ。我々は何をすべきかと」


またもや沈黙がおとずれた。

丸園は人と話すのに慣れていないから、表現がいちいち仰々しくて脅すような口調になる。

他の全員も会話に慣れていないから、脅されたと勘違いして黙りこんでしまう。


「コミケはやっぱり中止ですかな」

西川が懲りずに言った。

「てめえは黙ってな、ロリコンのおっさん」

木村が牙をむく。


「やれやれ。あなた方を同志と見込んで尋ねているのだがね。これじゃ子供の喧嘩だ」

丸園はため息をついた。


「案なら俺にあるぜ。ヘリコプターが空けた西方の穴、そこを抜けて世田谷区に遠征して、必要物資を奪うだけ奪って駅に保管しておく。人員50人の大作戦だ。日を分けて結構すればかなりの量が集まる。これでもし西方のゾンビが戻ってきても、冬は越せるという寸法だ」

真島はいそいそと喋った。


「指揮は誰が執る。統率されていない軍隊は一日ともたず崩壊する。それが一般人なら半日もつかどうか」

これまで黙っていた新島六郎がようやく口を開いた。

しかし文句をつけただけだった。


「メンバーをそれぞれ十人ずつの分隊にわけよう。それで生活してもらって、分隊長の命令はゼッタイということにする」

木村が提案する。


「言うことを聞くかね。彼らが」

「聞かせるのさ。こいつでな」


木村は例によって拳銃を見せびらかす。

五人が1挺ずつ持っているので、ここでは誰も驚かない。


「木村くんの案に賛成の者は挙手」


丸園が決を採ると、四人全員が手を上げた。

そのあとで丸園も手を上げたので、これで五人だ。


「木村くんの案を採用とする。各人決定を明日までに伝達しておくように。それから木村くん、遠征の件は君に一任しておく。分隊の機能が十分に活かせるようになって、西方のゾンビが今のまま少なければ、人員を送るといい。しかしその場合は、事前に人数とメンバーをここにいる五人に伝えること」


「了解しました。大五郎の大親分」


五人は会議室を出て、お抱えの伝令役に決定を伝えた。

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