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残敵掃滅 新居動乱

挿絵(By みてみん)


とうとうイワンが引っ越す日がやってきた。

場所は工場から1km東に行ったところにあるマンションの一室だ。

元が高所得者向けのマンションだったようでセキュリティは万全、電力が通っていなくても、防火扉を閉めるなどしてゾンビの侵入を防げるうってつけの建物だった。


実は田中を連れて東に遠征した際に、目ぼしい建物に目をつけていたのだという。

ユキは最初台東区の実家に住むつもりだったが、都心の状況を見てやめた。

そのあたりの常識は持っていたらしい。


イワンが全ゾンビを殲滅すると言い出すのじゃないかとヒヤヒヤしていた僕は、引越し先がわりと近い位置のあると聞かされた時、胸をなでおろした。

だが中島班のマンションを住めるようにするときと同じく、残存しているゾンビを打倒さなければ住むことができない。

イワンに応援を求められたときは、僕も一端の男として認められたような気がして嬉しかった。


出発の前、ユキが最も名残惜しそうに見ていたのはヒューイだった。

中島班のような大所帯であればヒューイを任せてもよかったのだが、マンション暮らしは人間にとっては快適でも犬にとっては退屈だろう。

「バイバイ、ヒューイ。また来るからね」


家具はマンションに残っているものを適当に使うので持っていなかないと言うので、最低限の荷物だけを積んで、僕たちはマンションへ向かった。

イワンがどうしても分けてくれというので酒を少しあげた。


田中は一度そのマンションを見ているはずだが、注意していなかったので覚えていないらしい。

僕は初めて見ることになる。


実際に到着すると、なるほど高所得者向けと言うだけのことはある立派なマンションだった。

近代的なデザイン、階数はそれほど多くないのに存在感は高層ビル級だ。

それでも中島班のマンションよりは階数が多い。

近所から垂涎の的になっていたんだろうな、と想像しつつ、イワンが提示した経路で敷地内に侵入する。


正面玄関ではなく裏口に装甲車を止めて、鍵を壊して中に入る。

僕、中島、幹夫、田中の四人が今回の掃滅作戦に加わっている。


ユキとイワンはツーマンセルで上階を見て回る。

僕は三人に支持して、四人一組でゆっくり下階を索敵することにした。

広々としているから、ゾンビが現れても対処に窮することはないだろう。


そんな甘い期待は、最初の一部屋を見回った際に裏切られる。

部屋の真ん中に巨大な怪物が鎮座していた。

どこからどう入ったのか、痕跡がまったくなかったため驚いて銃を暴発させてしまった。


音に気づいた怪物は僕たちに向かって突進してくる。

間一髪で避けて廊下に逃げると、それを追って怪物がドア枠を破壊して廊下に出てくる。

今までに見たことがない形のバケモノだ。


体全体に幾何学模様が浮かび上がっていて、頭部と思しき部分に巨大な目玉が一つある。

腕は大木のように太い。

反対に脚は人間サイズで、異様にデカイ腹と脚を腕力で引きずるようにして移動している。

威嚇のつもりかバケモノが鳴き声をあげる。


金属をこすりあわせたかのような耳に優しくない音が響く!


SCAR-Lで5.56x45mm NATO弾を撃ちこむも効いている気配はない。

こんな弾では埒が明かない。

しかしバケモノも少しは痛いようで、腕で眼球を防御ガードする仕草をとる。

腕が動かせなければ移動できない。


射撃しつつ後退して、十分に距離をとったところで幹夫に指示を出す。

「ダネルだ! グレネードランチャーを撃て!」

万が一に備えて持ってきたダネルMGLが活躍した。


撃った弾は弾道がまずくバケモノの手元で爆発したが、片腕に直撃を食らって肉が弾け飛んだバケモノは悲鳴を上げて後ずさる。

幹夫は更に引き金を引く。

腕の付け根に着弾し、耳をつんざくような雄叫びをあげたバケモノはその場に倒れた。


興奮した幹夫はもう一度撃って、眼球に命中ヒットした40x46mm擲弾は体内にめり込んだのちに爆発。

バケモノは悲鳴さえあげなかった。

肩で息をしている幹夫に優しく触れて、戦闘が終わったことを告げる。


「死ぬかと思った。俺、一瞬死んだかと思った」

「僕もだよ。君の射撃のおかげで全員が救われた」

「よかった……」


僕たちが後退してやってきたエントランス付近の空間は、かなり広く、弾が着弾して爆発できるだけの距離を稼ぐことが出来た。

もっと近距離で戦闘になっていたら状況は変わっていただろう。

おそらく死者が出ていたはずだ。


エントランスから見える庭で、再び金属音がした。

神経が高ぶって興奮している僕たちはすぐさまそちらに銃口を向ける。

庭の池から先ほどと同じバケモノが姿を表した。


バケモノは突進の構えをする。

幹夫以外の全員が、射撃しながらすり足で後方に進む。

幹夫はグレネードランチャーを構えて、バケモノと一騎打ちの姿勢だ。


しかし距離があまりにも近い。

着弾しても爆発しない可能性大だ。


「幹夫だめだ! 下がれ!」


その声を無視して、幹夫はバケモノに近づいていく。

5.56x45mm NATO弾をものともせず、バケモノは突進してくる。

ぶつかる直前でからだをひねった幹夫は腕にあたって横に倒れた。

彼は倒れたままピクリとも動かない。


バケモノは壁にぶち当たって一度停止し、それから方向を変えて僕たちに突進する構えをとる。

もはや僕たちは戦力差を悟り、射撃していない。


「ウラー!」


突如庭から現れたユキが、バケモノの側方にSaiga-12Sを連射する。

ビシビシと鈍い音がするも、効いている様子はない。

バケモノはユキに誘導され、庭に突進していった。


僕はすぐさま幹夫に駆け寄って、揺り動かさないようにして裏口まで運ぶ。

その間に三回、イワンがSV-98を撃つ音が聞こえた。


装甲車に幹夫を収納して、僕たちが庭に駆けつけると、そこには怪物の死体が転がっていた。

イワンは怪物の体に腰掛けて、銃の点検をしている。


「危なかった。幹夫、大丈夫?」

イワンが言う。

「意識はないが息はある」


「俺が診てみよう。軽い治療ぐらいならできるし、モルヒネも少しある」

「お兄さんたちは怪我してない?」

ユキが僕たちの心配をしてくれる。


「僕たちは平気だ。まさかバケモノと連戦になるとは思わなかった」

「こいつら」

イワンはバケモノの体にナイフを突き立てて言う。

「何者だ? ロシアにはいなかった」


引っ越しは一週間先延ばすことになった。

マンションの出入り口を塞ぎ、割れた大窓はどうにもならなかったけれど、通り道や廊下にイワンが手榴弾を使った手製の地雷を仕掛けて、その場を去った。

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