地面のひび割れを修繕する
中島班の頼みを受けて、駐車場のひび割れ修繕に行った。
イワンの引っ越しの件を中島と相談しておきたかったし、ちょうどいい機会だった。
マンションまで田中に連れて行ってもらうと、ハンヴィーからコンクリートミキサーをおろしてから、駐車場の端にグダっと腰掛ける。
翅型ゾンビの飛翔を見越して朝早くに出てきたので眠い。
既に起きて待機していた幹夫、橋部がセメントと砂を運んでミキサーの横に積んでいくのを、ぼうっと眺めている。
朝、マミが淹れてくれたコーヒーを飲みながら、25kgのセメント袋、30kgの砂袋を運んでいる二人を見るともなしに見ていると、昔のことを思い出す。
セブ島に行くための資金集めのとき、軽作業のバイトで同じ作業をした。
辛かった、重かったなあと考えているうちに、二人は全てを積み終えてマンションに帰っていった。
入れ替わりで今起きてきたらしい中島が現れる。
彼は花柄のナイトキャップをかぶっている。
毎度毎度よくもまあボケられるもんだな、と思い、近づいてきた中島の頭をひっぱたく。
「なにしとんねーん」
素早く避けた彼はカウンターにボディーブローを繰り出す。
予期していなかった僕はもろに食らってしまい、むせる。
「イワン様に教えてもらったのよ。効くでしょ」
「ちょっとは加減しろよ。痛てえよっ」
ミキサーをエンジンに繋げて動かし、砂とセメントと水を入れる。
「ブロック塀の補強もお願いできるかしら。人は連れてくるから」
「わかった。田中、出来上がった順から詰めていけ」
「アイアイサー」
来たばかりの中島はマンションに戻っていく。
田中はバケツに入ったコンクリートを運び、小型のシャベルでひび割れに詰めていく。
水の量を調節しながら屋上を見上げると、重田真純が監視にあたってくれているらしく上から手を振ってきた。
手を振り返していると、眞鍋と盛岡を連れて中島がマンションから出てきた。
「その辺の塀から盗ってくればいいだろう。聡志、台車ある?」
眞鍋が言う。
「取ってくる」
盛岡が駆けていく。
僕はなんかこいつら滅茶苦茶手際悪いな、と思いながら見ていた。
仕方あるまい。
僕だって最初からキビキビ動けたわけではない。
しごかれて効率を覚えたのだ。
ある程度のコンクリートが出来たところで僕は塀の補強作業にあたった。
穴が空いたり欠けたりしている部分にコンクリを流し込むだけの適当作業だ。
基礎から取り替えるのは時間もかかるし、事前に穴も掘られていないのでそこまではしなくていいのだろう。
そうこうしているうちに田中がひび割れを埋め終え、一足先に休憩を始めた。
手伝ってくれればいいのに、と思うが、四人いても意味が無い。
盛岡と眞鍋はぜんぜん役に立たなかった。
「他になにか用事ある?」
「もう大丈夫、ありがとう」
いい運動をしたという感じだった。
コンクリートミキサーを水道水で洗って、乾かしている時に中島と話をした。
「イワンとユキが引っ越すってよ」
「あら、じゃあ引越し祝い用意しなくちゃね」
「悲しまないのか?」
「新婚さんが愛の巣を求めるのは自然の摂理だもの。アタシが悲しむ筋合いじゃないわ」
「オカマのくせに男気があるんだな」
「だって男だもの」
「それほど遠くに行かないよう頼んでおいたし、また会えるだろう」
「アタシもイワン様と結婚したかったわ」
「会話するのにシミュレーションが要るヤツには無理だな」
「そういえば、阿澄ちゃんと話したわ。鈴木は案外度胸がないのね」
「度胸の問題か? あいつにも事情があるんだよ」
「そろそろ連れ戻さないと阿澄ちゃん可哀想だわ。行ってあげなさいよ」
「僕が行ったところでなあ」
「アンタしかいないのよ。こういう役ができるのは」
「そうかなあ」
最終的にはなぜか、新宿二丁目でゲイに相談している冴えないサラリーマンみたいな雰囲気になってしまった。
若くして自分の店を持っていただけのことはある。
中島の会話術はプロのそれだった。
「じゃあ僕は帰るから。料金として観測所任務一回分チャラな」
「あいわかった」
僕と田中はハンヴィーで工場に帰った。




