マツダのアクセラと接触事故を起こす
工場に集い、五人それぞれが自己紹介を終えたところで、田中がどうしても銃が欲しいというので、アメリカ軍基地まで行って武装を取ってくることにした。
実際あのときには必死で、目につくものを引っ掴んできただけに等しい。
できることなら僕も戻って武装を整えたいと思っていたところだったので、彼の申し出を断る理由がなかった。
けれども五人で行動するとなると、必然的にスローペースになる。
そこで霧の出た日を決行日として、車が運転できるという田中と僕で武器を取りに行くことになった。
あの怪物に見つかりさえしなければ、大きな収穫となるだろう。
「霧? 霧ってのはなんだえ?」
田中が首をかしげた。
「見たことない? 数日に一度、濃い霧が出る。その日はゾンビたちが消えるかわり、でかいキマイラみたいな怪物がうろうろする」
「そいつぁ豪儀だな。危なくないのけ?」
「一匹だけなら仕留めた。大量のゾンビを相手にするよりは楽だと思う」
「じゃあその案でいこう。おらぁ運転しかできねえから、他はお前に任せる」
楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽
結構当日、早朝から濃い霧が出たその日、事前に用意した日産のADバン乗り込んだ。
「それじゃあ行ってくるべえ」という田中の掛け声とともにエンジンが唸りを上げる。
基地の方向はだいたい覚えているので、何か見えるまで進めと指示し、僕自身は周囲を警戒していた。
「止まれ。ストップだ」
十字路に侵入しようとしていた車を止めたのは、遠くで物音がしたからだ。
「ゆっくり進んで、十字路の真ん中手前で停めろ」
その通りに動いた車。窓から銃口を出して照準器を覗くと、車の左側に黒い影を確認した。
霧のせいで距離がつかめないが、だいたい80メートルか120メートルほどのところに、例の怪物がいる。
「どうする? 撃つんか?」
小声で言う田中は、心配そうな顔で僕のほうを見た。
「いいや、このまま無視する。なるべくゆっくり進んで、音を立てないように。もし気づかれたときは、全速力だ」
「アイアイサー」
車は再び発信し、ザリザリとタイヤが地面をこする音がした。
巻き上げ機で持ち上げた鉄の塊を勢い良く地面に叩きつけたような轟音が耳をつんざく。
怪物の雄叫びだ。心配ない、あれは生理現象のようなものなので、他意も害意もない声だ。
しかし聞き慣れていない田中は、アクセルを全開に踏み込んだ。
その際にハンドルを操作しそこね、打ち捨ててあったマツダのアクセラと接触した。
ガシャンと醜い音が鳴る。
咆哮の音調が変わった。が、追ってくる気配はない。
十字路を猛スピードで横切った僕たちの車を、目で追いきれなかったのだろうか。
反響するエンジン音で方角がつかめなかったのだろうか。
何せよ九死に一生を得た。
田中を見ると、額に大粒の汗をしたたらせ、なぜか息をあがらせていた。
「だいじょうぶだ、追ってきてはいない」
「すまねえ、すまねえ、本当にすまねえ、動転して、すまねえ」
彼の謝罪は、基地に着くまで続いた。