寒くなってきたので防寒具一式を取り揃える
十一月になると、日によっては半袖では風を引きそうなくらい寒くなる。
夜間の監視や観測所には一応の防寒としてタオルケットが何枚か置いてあったけれど、それだけでは間に合わないくらいの寒さになってきた。
半袖の作業着では限界がきたようだ。
夏用の衣服で特に気にしていたのが肌の露出だ。
露出が高ければ涼しいが、ゾンビに襲われた際の防御力が心もとない。
一転して冬用では防御力を心配する必要がない。
たいていは長袖長ズボンなので、デタラメに厚着をしても大丈夫なのだ。
とはいえ調子に乗って厚着をすれば、動くときに邪魔になる。
考慮を重ねた末、僕はヒートテックに帯電防止作業服の長袖を着て、その上に山羊革のジャケットを羽織った。
下には冬用のニッカポッカを履いた。
緑と赤とグレーのニット帽も箱に入れた。
毎日服を考えるのは至極面倒なので、何十枚も一度に持っていく。
サイズが違っていても気にしない。
無理やり着る。
最近はスリムな体型のものが着られなくなってきた。
田中の言い草ではないが、僕にも筋肉がついてきたようだ。
服の回収には僕とマミ、田中が当たっている。
田中は服に頓着がなく、鈴木からも注文を受けた覚えがない(煙草をもってこいとは言っていた)ので、僕と同じものを箱に詰める。
時間がかかったのはマミだ。
彼女は自分のぶんと阿澄のぶんの担当だが、女性は服選びに時間をかけるもの。
こんなご時世でもその法則は健在で、三時間も服選びに付き合わされるはめになった。
今度連れてくるときにはマミではなく阿澄にしておこう。
それもどうなるかは分からないが。
三時間かけて一体何を選んだのか、マミに箱の中身を見せてもらった。
僕の選んだものと大概かわらない。
「ぜんぜん違うでしょ。よく見なさいよ」
よく見ても違いはわからなかった。
強いていうなら上着が革ジャンではなくトレンチコートだった。
カイロと毛布もまとめて持っていく。
あると便利かと思って、灯油ストーブもハンヴィーに積み込んだ。
手土産にレジ横にあったガムも盗んだ。
即座に気づいたマミがレジに50円置く。
なぜいつも足りない額を置くのだろう。
かくして防寒具一式を取り揃えたわけだが、帰る途中で田中が電気屋に寄っていくと言い出した。
訳を尋ねると、イワンが船から外してきたというエンジンとテレビを繋げて、見られるようにしたいらしい。
「放送してないんだからテレビが見られるわけないじゃんか」
「DVDなら見られるよお。頼むから寄らせてくれよお」
推奨はしないが一応繋げて見られることは見られる。
接続は簡単ではないはずだが、エンジンを盗んできた当人にやらせればいい。
電気が使えるといっても現状で使用しているのはライトくらいで、エンジンの使い道に困っていたとろこだ。
田中が使いたいと言うなら使わせてやってもいいだろう。
「寄っていいぞ。たぶんコードやら何やらいろいろ要ると思うから、手当たり次第にとってこい」
足りなくて戻るのは嫌だからな。
「アイアイサー!」
車は向きを変えて、以前トランシーバーを盗んだ電気屋へと走った。
電気が使えるといっても、電気屋に置いてあるもので役に立つ品が何かあるだろうか……。
僕はすぐには思いつかなかった。




