奪取/アハハ/胴廻し回転蹴り
その後も、通り道にあるマンホールをいくつかまわって、その度に「AAAAAAAAAMEN!!!!」の掛け声と共にC-4が投げ入れられた。
この程度の爆薬で地盤沈下など起ころうはずもないが、爆音を聞かされていると不安になってくる。
効果はてきめんだったと言うべきだろう。
普段であれば少しでも音をたてようものならゾンビがワラワラ飛び出してくる。
今度もゾンビは現れたけれど、その数は非常に少ない。
やはりゾンビの拠点が地下にあり、出入り口を塞がれたため出て来られないのか。
「これから宅急便の物品奪取に行きます。四人もいれば十分デス」
眞鍋は僕たちの装甲車に乗っている。
観測所に居る三人を送ってきたあとで作戦に加わったので、観測所のビルにはクーガー装甲車が停めたままになっている。
夕方に取りに行くついでに三人を回収して、夜間監視の人員と交代する予定だった。
「待てよ。それは日を改めたほうがいいんじゃないか」
「敵は複数箇所で起こった爆発に混乱してイマス。どこから攻撃を受けたのか特定できず、バラバラに散らばっているデショウ。今なら最小限の戦闘で奪取デキル」
ゾンビ相手にも決して手を抜かないこの態度。
まさしく男気あふれるマッチョメンである。
中島が惚れる気持ちも……少しわかる。
「心配ないってお兄さん。イワンは世界で一番強いんだから!」
fate/stay nightで同じことを言ってた女は死んだな、と思った。
「オ兄サン頭カタイね。ほら見てて」
運転しながら彼はドアを開く。
ちょうど道端にしゃがんでいたゾンビにドアが当たり、哀れなゾンビは跳ね飛ばされる。
「Booooom! head shot!」
「アハハ!」
ユキがそれを見て笑う。
そして40mくらい走行したところに別のゾンビがいたので、今度は助手席にいるユキがドアを開け、ゾンビが跳ね飛ばされる。
「Double kill!」
「アハハ!」
アハハ、じゃねーだろ。
いろいろと規格外な二人であることはこれまでで十分に証明された。
しかし新たに何かするたびに驚きを上書きしていく二人であった。
楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽
宅急便が横転している地点に着いた。
60mほど離れた位置から双眼鏡で偵察したときには、周囲にゾンビの姿はなかった。
どういう方法で車に近づくのか興味があったので黙っていると、イワンは普通に車をトラックの横につけた。
「さあ降りて。じゃんじゃん運んでねネ」
「お兄さんたち、早くしなさい」
命令されるのは癪だったが、ここまで彼らの手際の良さを見せつけられている。
ここは従っておくのが最善だろう。
「彼らは何者なんだ? 女性のほうが日本人なんだろう?」
眞鍋の頭の上にはいくつものハテナマークが浮いているようだった。
「考えるとハゲますよ。あれはあいうものと思ってたらいいんです」
言われたとおりに動いて、中身を確認する前にひたすらダンボールを装甲車に積んでいく。
周囲には多くの車が廃棄されていて、いつ物陰からゾンビが飛び出してくるか気が気ではない。
「ポーゥ!」
かなり近くから、サイケデリックゾンビの声が聞こえた。
見回すが姿はない。
「よそ見しない! さっさと運ぶ!」
ユキの激が飛ぶ。
「ポオオゥ!」
敵はイワンの背後から猛ダッシュしてきた。
イワンは拳銃を抜き目にも留まらぬ速さでマガジンを撃ち尽くす。
全てを避けた(信じられないが本当に避けた)ゾンビは依然変わらぬスピードで接近する!
「イワン逃げろ! 噛まれる!」
僕が叫んだ。
そのとき、サイケデリック・ゾンビの顎はイワンから50cm離れた位置にあった。
実際はもう少し距離があったかもしれない。
あと数秒もしないうちに噛まれる。
僕は覚悟して、トラックに逃げ込もうとした。
イワンが噛まれたとしても、眞鍋がいれば運転して逃げられると踏んだからだ。
イワンの体が回転し、ロシア仕込みの格闘術システマを思わせる柔軟さで、ゾンビの首元に胴廻し回転蹴りが炸裂した。
200cm超の巨体から繰り出される回し蹴りの威力で、ゾンビは横にあったカワサキのバイクNinja 250に叩きつけられる。
イワンは倒れたゾンビになお追撃をくわえんと駆け寄り、立ち上がりかけたゾンビの片腕を掴んで上体を固定したところで、もう一度首元に強烈な蹴りを浴びせた。
完全に首の骨を折られたゾンビは力なく横たわる。
勝敗は決した。
「Triple kill!」
「アハハ!」
もう僕はよそ見せず、従順に荷物運びに徹した。




