Amen
いい加減巨大マンホールの調査を始めたい。
少しずつではあるが街にいるゾンビ、手長足長の数が増えているような気がする。
他方、あの例の巨大な怪物は鳴りを潜めたままだった。
ゾンビたちが入ってくる箇所。
ポーゥ! ゾンビもそうだが、おそらくはマンホールから侵入してきているのではないかと予想した。
工場より西方に位置している中島班の報告では、西方からの目立った流入は無いという。
東方に出掛けたイワンたちの証言でも、立川を出て西国分寺付近に到達するまで、集団ゾンビとの遭遇は一度もなかったらしい。
イワンに手伝って貰おうとお願いすると、彼は首を横に振った。
「夜間もしくは暗い地域での戦闘は特殊部隊レベルでないと無理デス。イラクでもアフガンでも、夜間の特殊作戦に普通科兵士が加わることはアリエマセン」
「アメリカ人みたいなことを言うなよ。君はKGBなんだろ」
「KGBじゃアリマセン。スペツナズです」
「同じようなもんだ」
弱った。
まさかイワンに断られるとは思わなかった。
しかし彼の言うとおりだ。
マンホール内に明かりはない。
明かりを持ち込めば、それこそ蜂の巣をつついたようにゾンビの集中攻撃にあう。
だからといって明かりを点けなければ、特殊部隊を動員するしかないレベルの作戦難易度になる。
まず内部の様子が分からない。
敵の数、拠点も分からない。
それではどうしようもない。
「上から攻撃するだけなら手伝えます。中にはゼッタイに入りません」
「OK、それでいこう」
楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽
観測所からの狙撃は、緊急時につき1名増員し3名が担当する。
阿澄、中島、幹夫の三人だ。
地上には僕とイワン、ユキ、眞鍋がいる。
イワンとユキが銃を構えてマンホールに向けながら、僕と眞鍋で蓋を外す。
かなり重い。持ち上がらないんじゃないかと思った。
途中でイワンが銃を置いて持ち上げるのを手伝ってくれた。
彼が手をかけるとみるみるうちに蓋が動き出す。
蓋がズレて入り口が見えかけたとき、ユキがSaiga-12Sの引き金を引いた。
ギャッと悲鳴がして、何かが落下していく。
「心配いらない。ただの雑魚よ」
やれやれ、手長足長を雑魚呼ばわりとは、恐れいったね。
蓋が外された。
穴があらわになるが、深くて暗いので底の方は見えない。
イワンが強力な軍事ライトで照らす。
11000ルーメンもの明るさを誇るアメリカ製ライトだ。
「そこはロシア製ちゃうんかーい!」
「ロシアお金ないから開発できない」
照らしても底には何もいなかった。
イワンが筒状の物体から伸びた導火線に火をつけて投げ込む。
「今のは? スペツナズ・アイテムか?」
「結婚式で余った花火デス」
「ああ、そう」
花火の爆音はマンホール内で反響する。
待機していると、ギャッ、ギャッ、と中から幾十にも重なった手長足長の声が聞こえた。
数秒後、底部分に何十体もの手長足長が折り重なった形で現れる。
情けない話だが、僕はビビって半歩身を引いた。
逆にユキは穴に半身を乗り出して、下方にSaiga-12Sを連射する。
上がってくる勢いは多少減ったが、それでも銃弾をものともしない精鋭の手長足長は登ってくる。
「イワン! ロックンロール!」
ユキが合図らしき言葉を言う。
合図なんて決めてたか?
「AAAAAAAAAMEN!!!!」
HELLSINGで聴いたことがある叫び声をあげて、イワンが穴にC-4を投げ込む。
C-4は高性能なので、起爆装置を操作しない限り爆発しない。
「AAAAAAAAAMEN!!!!」
なぜかもう一度叫んでから、イワンが離れろという手振りをして僕たちをその場からどかす。
爆音とともに血糊、吹き飛んだ手、煙、粉塵、もろもろが穴から情報に吹き上がる!
「AAAAAAAAAMEN!!!!」
イワンは満足せず、崩れてふさがりかかった穴(粉塵でよく見えない)に駆け寄ると、ユキと一緒になってSaiga-12Sの12ゲージ弾を下に向けて撃ちまくる。
「AAAAAAAAAMEN!!!!」
「エーメン!」
仲良く共同作業に当たる二人。
やっていることは素晴らしくおぞましい。
「撤退! 撤退! 撤退!」
イワンが叫び、急ぎその場から撤収する。
状況確認は後でいい、というのがスペツナズ流だそうだ。




