オウムが飛んできて不吉なことを言う
出発から六日経ったある日、イワンたちがまだ帰らないのでさすがに捜索隊を送るかどうか検討し始めたとき、窓枠に一羽のオウムがとまった。
厳密にはオウムではなくヨウムだった。
遠くから見ている分には可愛らしいオウムでも、実際に近くで見ると目が恐い。
それにくちばしも尖っていて、雀などと比べると大型なので威圧感もある。
突如現れて、一同をじっと眺めているオウムの不気味さは一層強調されて、もはや禍々しさすら放っていた。
「信じるな、信じるな、信じるな!」
「見ろよあのオウム、信じるなって言ってるぜ」
「トリちゃんこっちにいらっしゃい」
「オウムって食べられるのかしら」
どうやら三人にはどうでもよかったらしい。
オウムはしばらく「信じるな」と連呼した後で去っていった。
どういう意味だったのかは不明だ。
「飼い主の性格が疑えるわね。信じるなって、なんでそんな言葉を覚えさせたのかしら」
「口癖だったのを勝手に覚えたのかも」
僕が言う
「どっちにしてもろくなもんじゃないわ」
「イヤだ忘れてたわ。ワンコちゃんどこ行ったの? ここに来てから一度も見かけないけど」
「ヒューイなら放し飼い状態だよ。餌の時間になると戻ってくる」
ジャリジャリ砂利を轢く音がして、敷地内に車が入ってきたのが分かった。
一階に降りて敷地に出ると、イワンの装甲車が停まっている。
車の左右は血に汚れ、フロントガラスにもベッタリと血痕がついている。
僕たちが遠征のときハンヴィーで逃げたときは、ここまでの汚れにはならなかった。
車の外観とは裏腹に降りてきたイワンは満面の笑みだった。
なぜかクーラーボックスをもって降りてくる田中。
彼も同様に笑っている。
「ヨオ、オ兄チャン。大漁だよ」
「まさかとは思うが海に行ってきたのか?」
「横浜カラ沖まで二時間、海は広くてキモチイよ」
一対一でないときのイワンは終始この調子なので会話にならない。
ここは諦めて田中に説明を求めたほうが良さそうだ。
「田中、説明を頼む」
「アイアイサー」
彼の説明によると、最初は計画通り東へ向かって進んでいたのだけれども、三日目になってユキが魚釣りがしたいと言い出した。
イワンはすぐさま車を海に向かうと言い、田中は一応止めたのだが、徒労に終わった。
横浜付近の港に着くまでに中規模の戦闘が三回。
田中も応戦に加わったそうだが、ユキのショットガンとイワンのAK-12でほとんど殲滅された。
7.62x51mm NATO弾の連射は凄まじく、敵は溶けるように崩れ落ちていったと田中は興奮して言った。
港に到着すると漁船を盗んで沖に出た。
港から離れる直前、陸地に見慣れない塊があるのに気づいたイワンは、車から持ってきたRPG-7V2をためらいなくぶっ放し、でっぷり太った体長6メートルはあろうかというスライム状の肉塊は、見事に爆散した。
そして沖に出てからが一苦労だったという。
途中でエンジンがかからなくなり漂流するも、呑気な二人は取り合おうともせず釣りを楽しんでいる。
田中の心労を他所に楽しむだけ楽しんで、さて帰るかという時分になったとき、偶然にもエンジンがかかるようになって陸に戻れた。
「ゲロ吐きそうなくらい怖かったケド、もうへっちゃらさ」
田中の表情は死線を越えた人間らしい狂気をはらんでいた。
とにかく無事でよかったと彼の肩を抱いてやると、気持ちがワッをあふれたのかオイオイ泣き出した。
「お土産にマグロ釣ってきたからみんなで食べましょう。イワンが一本釣りしたのよ! クーラーボックスに入るよう捌いてきたから、急いで食べないとダメになっちゃうわ」
「船から小さいエンジン外して持ってきたカラ、お土産にアゲルヨ。ガソリンで動くカラ電気使い放題ネ」
常軌を逸している。
まったく、常軌を逸した二人だ!




