べらべらと喋る田中
鈴木、田中、阿澄の三人は、八王子の専門学校に通う同級生だという。
ちなみに鈴木と田中は男で、阿澄は女である。
道路の端にいた彼らに僕が近づいていくと、彼らのほうが先に警戒して、手にした鉄パイプを握って威嚇行動をとった。
すかさず僕は腰に下げていたベレッタ92を構えると、彼らは顔を見合わせ、静かにホールドアップした。
この世界にもまだ秩序らしい秩序は残っているようだ。
「噛まれてないか?」
最初に口を開いたのは鈴木だ。
「噛まれてない」
僕は答える。
「驚いた。この辺に生存者が残ってるなんて」
阿澄が笑いかける。
「僕たちだけだ。あとひとり、仲間がいる」
「その銃いいな、これと交換しねえか?」
金髪に耳ピアスをした田中が、日本刀らしき刀を手に持って言う。
「日本刀か。どこで手に入れた?」
「なあに、代々木によお、刀売ってるところがあってよお、俺たちゃそこまで言って盗んできたのよ。わざわざ中央線の線路伝いにずーっと真っ直ぐ行ってよ、この季節じゃアチーってなもんだがよ、さすが線路だけあってすぐに着いちまった。だいたい3日ぐれえかかったけどよ、最初は一週間はかかると見ていたもんなぁ」
彼はべらべらとよく喋った。
今後の予定を訊くと特にないというので、とりあえずは工場に招待することにした。
籠城する際に人員を増やすことが良いのか悪いのかは微妙なところだが
二人よりは三人、三人よりは五人いたほうが出来る作業も広がる。
幸い飲食物は足りているし、うろついているゾンビの数も少なかったので
当面は工場に拠点を置き、時を見て徐々にゾンビを一掃していく計画を
マミとふたりで立てていたところだった。
「そうなんだよなあ。なにせ何にもわからんままに皆ゾンビになっちまったもんだから、飯が残ったままなのよお。俺たちも最近食い過ぎて逆に太ったってなもんで。いやな、7月の15日、いつものように起きて、学校いくべーってとこまではよかったのよ。んで着いて、一限目はじまるべーってなったところで、中村の野郎が木村の腕噛んでるじゃんか。俺驚いちまって、“中村やめろ!”って叫んだのよ。まったく聞きゃあしねえ。そしたら美咲が真奈美に噛みつくだろ? 志村は田口に噛み付いて、俺は逃げ出して、こいつらと一緒にいるってわけよ」
田中がべらべら喋ったところによると、この災害は同時多発的に発生したようだった。
ウイルステロ、毒物混入、怪電波、ありがちな原因を一通り考えてみたけれども
共通点のない大勢の人間が同時にゾンビ化したとなると、どれも違うように思えた。
「都心の様子はどうだった? 飛行機から見えたのは、ビルが倒壊していたことくらいなんだが」
僕も気になっていたことをべらべら聞いた。
「さてどうだかなあ。わっかんねえのよお、俺も詳しいことは。だけんどウワサがあって、何でも北朝鮮が地中貫通爆弾を撃ちまくったんじゃねえかって。たしかに数日、やたらと地鳴りがしていたことがあったもんなぁ」
どうやら事態は予想以上に悪そうだ。
少なくともここに、五人の生き残りがいる……。
気を落とす前に生き残ることを考えよう。