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手長足長を狙撃する

挿絵(By みてみん)


人間の精神のタフさには毎度驚かされるものである。

横になって呆然としながらテントの上をじっと見ていると、意識が飛んでいってうつらうつらしてきた。

僕は寝るときに頭のなかを空っぽにせず、脈絡のないイメージを繋げていくという遊びをする。


からっぽにしようとすると、それに一生懸命になってしまいかえって寝られなくなるのだ。

だから頭のなかに漫才のイメージが浮かべて、それで遊ぶことにした。


もうえええわ、ありがとうございました、の流れが一体いつ出来上がったのか。

漫才の度にもうええわ、と言うのはどういう心境なのか。

もうええわ、というわりに全然もういいという顔をしていないのはなぜなのか。

そういったどうでもいい考えが脳内を駆け巡り、アッ、これは寝られると思った瞬間。


ガサゴソやる音がして顔を傾けると、鈴木がテントに戻ってきた。


「ちょっと来てくれ。見て欲しいものがある」


寝ぼけまなこでテントの外に這い出る。

相変わらず風が強い。

雨が降っていなくて幸いだった。

これで雨まで加わっていたら、間違いなく逆ギレして銃をぶっぱなす自信がある。


「あそこだ、ほら」


鈴木に暗視装置を渡されて初めて、自分が暗視装置なしで眼が見えていることに気づいた。

夜は無灯で過ごすことが多かったせいか、夜目が効くようになってきた。

感慨深い気持ちで彼に言われた方向を見る。


「おいおい、なんじゃあれは」


大量の手長足長が、マンホールから這い出てくる最中だった。

1体、2体と次々に地上へ顔をだし、欽ちゃん走りで四方八方へ散っていく。

こいつらが走っているのを見るのは二度目だが、それでも新鮮な驚きがある。

人間の脚力ではありえないスピードで走っている。


「これじゃランニング・オブ・ザ・デッドだな。いや、ダッシュ・オブ・ザ・デッドか?」

「くだらないことを言うな。連絡しなくてもいいのか?」

「するよ。ちょっと待ってろ」


僕はテント内に戻って小型無線機をつける。

「もしもし」と言うと阿澄の返事が聞こえた。


「観測所から報告。マンホールから手長足長が大量に出てきてる。そっちに行くかもしれないから、警戒を強めてくれ。中島班にも連絡頼む」

「アイアイサー」


再び外に出ると、鈴木がM24を構えていた。

「どうした」

彼が銃口を向けているほうに目を移すと、三体の手長足長が全速力ギャロップでこちらに走ってくる。

「何事も無く過ぎてくれればいいが、ビルに入られると面倒になる。撃ってもいいか?」


少しだけ悩んだ。

何しろこの風である。

命中する保証はない。


「よし、撃て。俺も撃つ。当てろよ」

「アイアイサー」


それでも射撃を命じたのには理由がある。

ペットボトルサプレッサーの実力を試したかったのと、風のおかげで音が反響して位置が特定しづらくなるだろうと予想したからだ。


彼の放った一発目の弾丸は手長足長の右脇腹に命中ヒットして、バランスを崩したそいつは転倒した。

あのスピードから転倒したのだ。

アスファルトの摩擦で肉が抉られて、地面が真っ赤に染まる。

暗視装置越しなので赤には見えなかったが。


僕の撃った弾は外れた。

しかし幸運の女神は僕たちの味方をしてくれた。

自分が撃たれたと思ったらしい手長足長は、急停止して方向転換しようとするも、音が反響して位置がつかめずに数十秒間立ち往生した。

残る敵はあと二体。


僕と鈴木は好機を逃さず連続で射撃した。

二人のマガジンが空になって、計10発を撃ち尽くす頃には、手長足長は地面に伏していた。


「他の奴らが音を聞いて来るかもしれん。朝方まで二人で監視しよう。日が昇る前くらいにお前は一度安め。僕はさっき寝たから、お前が起きてくるまでは一人で監視する」

「了解。悪いな」


離れた場所に陣取って、僕は北側、鈴木は西側に銃を向ける。

なるほど彼が言ったとおり、テントの中よりは外にいたほうがスッキリする。

テントのはためく音を間近で聞かなくて済むので耳にも優しい。


朝まで待っても、手長足長の増援は現れなかった。

鈴木がテントに引っ込むと、僕は移動して、今まで彼が見ていた方向に銃をセットした。


朝日が登る。

何気なく、夜に手長足長がゾロゾロ這い出してきたマンホール付近に照準を置いていると、散ったときと同じように欽ちゃん走りで戻ってきた大量の奴らが、マンホールに飛び込んでいく光景が見られた。


あんなに勢い良く飛び込んでいいのか? と注視すると、先程は手長足長に気を取られて気付かなかったが、そのマンホールは通常とは違うタイプの大型のものだった。

あれが奴らの出入り口だとすると、強襲をかけてみる価値はありそうだな……。


上手く行けば上からダネルMGLの集中砲火を浴びせられる。

しかし実行には多大なる危険が伴うだろう。

犠牲も覚悟しなくてはならない。


リスクを最小限に抑えるためにも、これから数日間にわたってマンホールを監視する。

あの穴が本当に奴らの出入り口なのか、毎晩ああして出入りするのか。

確かめておきたいことは山程ある。


ちなみにペットボトルサプレッサーは、市販のガムテープでくっつけるだけでは粘着力が足らずに、三発目の射撃のとき吹き飛んでしまった。

減音効果は、まあそれなりにはあった。

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