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がんばる

「今日も1日頑張るぞい」


NEW GAMEの台詞で一日を開始した僕の心は、早くも折れかけていた。

突風が吹きすさぶ野外で、僕と田中、そして鈴木は詰所設営作業をしている。

詰所という言い方は大仰だった。


単純に、頑丈な骨組みを持ったテントである。

設営する場所は六階建てのビルの屋上。

この位置に観測所を設置して防衛に当たれば、工場付近一帯を中島たちのいるマンションとあわせて、三箇所から監視できる。


約300mの辺をもつ三角形を想像すればわかりやすい。

三角形の内側は最低でも三人の狙撃手スナイパーが、それぞれ別方向から狙っているという寸法だ。

結局ペットボトルサプレッサーは気休めにしたならない程度の減音しかできなかったけれど、ないよりもマシだという理由で観測所任務に当たる人間には着用してもらうことにした。


任務には工場とマンションから一人ずつ選出してもらい、ローテーションでシフトを組む。

それもこれもテントが無事に設置されなければ始まらない。


「田中、押さえとけよ。よし、鈴木、上げてくれ」

テントなど張ったことがない若人三人は、慣れない作業に四苦八苦していた。

本当は工事現場にあるような、丈夫な詰所を建てたかったのだけど、設営するときに音が出てはいけないので、やむを得ずテントにした。


それでも観測所としては一級品であり、中はそれなりの広さがあって、一週間分の食料と武器弾薬をしまっておける。

外部には都市迷彩を施して見つかりづらくしてあり、万が一の事態に備えて、屋上から地上にそのまま逃げられるよう懸垂下降ラペリング用のロープも据え付けてある。


どうにかこうにか設営を終えると、テストするため僕と鈴木は残って、田中だけを先に帰す。

通常は二、三日監視業務にあたるとして、今回のテストは一泊二日にとどめておく。

最初から調子に乗って怪我でもしたら大変だ。


田中が帰る前、三人でテント内部の具合を確かめた。

骨組みにとびきり頑丈な純国産カーボンを使用したから、骨組みの間の幕は風にはためいているけれども、テント自体はびくともせず建っている。

これならば長期任務でも大丈夫そうだ。


「クッションが欲しいな。屋上に直に敷いてあるから床がカタイ」

「ここ、トイレはどうするんだ? 屋上からするのか?」

「まさか。ペットボトルにでもしろよ」

僕と鈴木が話していると、田中は水を取ってゴクゴク飲み始めた。


「水分は、補給しすぎるということがない……」

「いやそれは山の話だろ」

「水分は、摂り過ぎるということはない……」

彼は最近ハマっているという神々の山嶺の台詞を言った。


夕方になる前に田中は帰っていった。

夜になると風の勢いがますます強まったように感じられた。

この轟音では銃弾も真っすぐ飛ばないだろう。戦闘になれば厄介だ。


鈴木は落ち着かないようで、SCAR-Lのアタッチメントをつけたり外したりしている。

そういえば彼は、工場で暮らすようになってから外で夜を明かすのは初めての経験である。

気が高ぶっていても無理はない。


「僕が先に監視にあたるよ。お前は休んどけ」

「いや、外に出てたほうが落ち着くかもしれないし、俺が先に行くよ」


彼がテントを出ると、僕は一人テントに残された。

風の音しか聞こえない、暗闇の世界である。

小さな灯りでも目立つため、暗視装置越しにしか視ることが出来ない。


一人になると、あの夜を思い出す。

居眠りをして死にかけた晩だ。

横になってみるが、ちっとも気が休まらない。


床はかたくて冷たいし、音もすごいので眠れない。

だんだんと工場が懐かしくなってくる。


「やっぱり、クッションは必須だな」

誰もいない空間にむかって、僕は呟いてみる。

当然返事はない。長い長い夜の始まりだった。

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