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掃討/占領/ビッグママ/長文

ブローニングM2重機関銃をハンヴィーと装甲車に取り付ける作業には丸二日かかった。

重い上に試行錯誤しながら取り付けたからである。

両車ともOGPK(銃座を囲う装甲)がついているので、それほど苦労はしなかったが、とにかく重くて重くて仕方がなかった。


なんとか取り付けを終えてみると、さすがに圧巻である。

装甲車二台に据え付けられた重機関銃。

これがあるだけでも無敵になった気分になれる。


これでかなり殲滅能力が上がったはずだ。

一度放てば、敵に当たらずとも6kmは弾丸が飛ぶ。

まさしく“ビッグママ”みんなのお母さんである。


初射撃は明朝、掃討作戦で行われる。

かねてから予定していた、新拠点占領を実行するのだ。

夜のうちに出発して、西側に進路をとる。


日野市上空が遠望できる位置で待機して、日の出とともに飛翔する翅型ゾンビに弾幕をお見舞いする。

可能なら重機関銃の射撃で全滅させるが、同時にM249軽機関銃も持って行き、援護射撃を行う。

重機関銃2名、軽機関銃3名、狙撃銃2名、弾薬運搬2名。

今までにない高火力戦闘である。


田中、鈴木が重機関銃を担当する。

僕、中島、眞鍋は軽機関銃。

マミ、阿澄が狙撃担当で、盛岡聡志と飯島幹夫が弾を運搬する。


必要な場合には重機関銃の銃身も交換しなければならいので、聡志と幹夫には事前にやり方を教えておいた。

作戦中に訊かれても答えられないからな……。



楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽



深夜三時五十分、定位置についた全員は日の出を待っている。

手広の駐車場に停まっている車は、僕たちの装甲車二台しかない。

先ほど田中と眞鍋がすべて移動させたのだ。

本当に運転できる組には申し訳ない。


鈴木だけは車内に引っ込んで煙草を吸っている。

上に出てまま吸うと明かりが目立つから隠れて吸えと僕が言ったからだ。


中島が音を立てて大あくびしたので睨む。

彼は「ンもう」とでも言いたげな顔で口を押さえる。


ちょっと早く着きすぎたかなという感じだった。

それでも時間は過ぎる。

徐々に周囲が明るくなって、暗視装置なしでも遠くが見渡せるまでになった。


もうそろそろ日の出だ。

車の横を叩いて鈴木に知らせる。

彼は銃座からひょっこり顔を出した。


「くるぞ、来た!」


西の方角から羽音がして、大量のゾンビが天めがけて飛び始める。

合図とばかりに田中が数発撃って挑発する。

大きな音がしたのでゾンビはこちらに気づいて、方向転換して急速に接近してくる。


先頭の1匹を皮切りにどんどん続き、まるで空に浮かぶ黒丸のような形になる。

重機関銃にとっては単なる的だ。

「よし! ビッグママの恐ろしさを奴らに思い知らせてやれ!」


二台の車から重機関銃の掃射が開始される。

ブユの塊にゴキジェットプロを噴射したが如くにハラハラとゾンビが舞い散る!

まだ相当離れた位置にいる翅型ゾンビは、弾幕に対し為す術がない。

近づけば近づくほど命中率も上がる。


銃身の加熱を防ぐため一旦射撃をやめて、その間は軽機関銃で応戦する。

重機関銃よりも威力では劣るが、こちらもれっきとした機関銃である。


マミたちはまだ撃たない。

彼女たちは危険域にまで接近してきたゾンビを仕留める役目だ。


「撃て、撃て、撃て!」


軽機関銃と交代して、再び田中と鈴木が掃射する。

もはや一方的な試合、コールドゲームだった。


ゾンビの数が少なくなってくると、機関中での射撃を中止して、眞鍋、中島、幹夫、聡志の射撃訓練も兼ねて彼らにM24を持たせた。

立ったままゾンビを狙って命中させるのは至難の業だ。


それでも中島は筋がよく、三発に一発は当てていた。

マミと阿澄は休むことなく撃ち続け、ほとんど百発百中である。


ゾンビの数が極端に少なくなると、彼らも負けを悟ったのかそれ以上襲ってくるのをやめ、西方に舞い戻っていった。

追撃をくわえんとする田中を止めたのは、彼らに対するせめてもの慈悲だ。


「これより占領作戦に移行する。全員ライフルに持ち替えろ」

各々がM4A1、HK416、SCARに持ちかえる。

そして車が停めてある駐車場のすぐ横のマンションに入る。


このマンションは工場から300m以内に建っているため、小型無線機でやり取りが出来る。

三階建で、個室は全部で24部屋。8人には三階で生活してもらう。

人間を住めるようにするには改修を加えるポイントがいくつもあるけれど、それは後々協力してやるとして、当面は重機関銃を装備した装甲車一台あれば十分だと判断した。


三人一組で各階にわかれてゾンビの有無を確認する。

僕とマミと中島は三階にあがって、一部屋ずつ見落としのないよう丁寧に索敵していく。

下階で発砲音がした。


全部屋見まわって、三階にいたゾンビはゼロだった。

二階に降りると、鈴木、幹夫、阿澄の三人が索敵を終えて階段に向かって歩いてくるところだった。


「上はゼロだ。二階はどうだった?」

「こっちもゼロだ。あとは一階だけだな」

「発砲音が聞こえたけど、何か連絡はあったか」

「なかった」


一階に降りる途中で、連続で発砲音がした。

急いで降りると、田中、聡志、眞鍋が駐車場に銃口を向けている。

見ると中規模のゾンビ集団が道路を埋め尽くしている。


「撃つな撃つな。ここでやりあっても音を聞きつけてますます増えるだけだ。撤退するぞ。鈴木、中島、ふたりは別の車に乗って、銃座から音を出してゾンビを惹き付けろ。できるだけこのマンションから遠ざけておきたい」


「アイアイサー」


車を発進させて工場に戻る。

これでしばらくは午前中にも行動できそうだ。

翅型ゾンビさえいなければ、これまで通り立川市を練り歩いてもそれほど危険はない。


行動範囲がかなり広がった。

車も一台増え、大規模な作戦も展開できるようになった。

これならば第二次遠征隊を組織して、都心部へ赴くことも可能だろう。


しかしさしあたっては引越し作業だ。

8人を移動させるのは、口で言うほど簡単ではない。


一度引っ越し屋のバイトをしたことがある。

セブ島へ行く資金集めでやむを得ず働いたのだ。

二度とやりたくないと思った。


それをこれからやらなくてはならない。

三階へ荷物を運ぶのは楽じゃないぞ。

弾丸、銃、おそらくは酒も……。

考えただけでも腰のあたりがズキズキし始めた。

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