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ヒューイが役に立つ/大規模戦闘

その夜、緊張が緩んだ僕とマミは見張り中に眠りこけてしまった。

中島と田中はしっかり任務にあたっていたのに、僕らが気を緩ませたのは完全に落ち度である。

はじめマミがウトウトしていて、起こそうかとも思ったけれど前日に何もなかったのが思い起こされて、別に少しくらい寝かせてあげてもいいか、と考えてしまった。


車の助手席に座る人は寝てはいけないという理論がある。

運転手の眠気を誘って事故につながるからだ。

眠っているマミをぼうっと眺めていると、僕のまぶたがだんだんと重くなってきた。


寝てはいかん、と気を引き締めるも、効果は持続せず数分後にはまた瞼が下がってくる。

脳裏には脈絡のない映像が浮かんできて、赤、白、黄色、と意味のない言葉をブツブツ声に出して言っていると、ヒューイの吠える音が聞こえた。


ハッと目を醒ました時にはニ時間経っていた。

睡眠を舐めてはいけない。

主観では数秒間ウトウトしただけだったのに、実際には二時間も居眠りをしてしまった。

交代の合図もなかったので田中と中島は眠っている。


ヒューイの呼ぶ声に気がついたのは僕が一番だった。

マミを叩き起こし、田中と中島にも声をかける。

暗視装置で外を見ると、全方位から大量のゾンビが近づいてきていた。

車は完全に囲まれている。


「田中、銃座に出ろ! 中島と僕は左から、マミは右から撃て。1体も近づかせるな!」


すぐさま車を降りて配置につく。

車の中ではヒューイが勢い良く吠え猛っている。


マミは早くも射撃を開始したようで、発砲音が聞こえる。

「中島、横になぞるよう撃て。狙わなくてもいい。とにかく弾を消費するつもりでガンガンいけ」

「アイアイサー」


言われたとおり中島はM4A1で射撃するが、倒れたのを視認できたのは十体ほど。

僕は全方位に気を配りながら、弾幕をすり抜けて近づいてくるゾンビの頭部を確実に撃ちぬいていった。


「田中! マミのほうの状況はどうだ?」


上に声をかけると、田中が顔を覗かせて返事をする。


「駄目だ、よく見えねえよお!」

「お前から見て一番薄そうなところにM72を撃ちこめ!」


一旦車中に引っ込んだ田中は、M72を手に銃座へ戻る。

それからしばらくして、彼が撃ち込んだのは誰の方面でもない、車の後方だった。

事前に田中には、M72を撃つ際には引火しやすいものを狙えと教えてある。

彼はそれを実行して停めてあった軽トラックにロケット弾を命中させた。


爆炎があがり、一面がパッと照らされる。

それを見て僕は田中にエンジンをかけろと命じた。


エンジンがかかりフロントライトが点灯する。

おびただしい数のゾンビが視える。

爆炎があがった方向は比較的少ないが、それでもまだ相当数のゾンビがいる。


「中島ァ! 撃ち続けろ!」


言った後でマミのほうにまわって状況を確認する。

こちらも似たようなものだった。


「どうする? 強行突破する?」

「あの量は突破しきれない。横転したら為す術なく終わりだ」

「このまま撃ってても埒が明かないわよ」

「中島をこっちに連れてくる。一方向に一斉射撃して、空いたところにハンヴィーで突っ込む」


中島と田中にも作戦を伝えて、ただちに実行に移す。

横一列に並んで、田中は銃座から、一斉に弾を撃ちだす。


ゾンビの腹部を貫通した弾が風穴をあけ、後ろ側にいた的にもダメージを与える。

血しぶきが舞う。

頭部を抉られたゾンビが将棋倒しに倒れ、大地に接吻してもなお痙攣してうごめいている。

僕はマミの横にいたが、薬莢が顔に当たってアチチとなった。


作戦の効果はあった。

それぞれが30発を撃ち尽くす頃には計112体ほどのゾンビを殲滅し、空間には隙間ができていた。

電光石火でハンヴィーに乗り込むと掛け声を待たずに発車して、空いた隙間を猛スピードで突き進む。

ゾンビを轢き、跳ね、ぶつかり、叩かれ、横転こそしなかったものの車は何度も激しく揺さぶられた。


ようやく落ち着いて物事を考えられるようになったのは、1km走行してからである。

「グッボーイ、グッボーイ」

ヒューイの頭を繰り返し撫でてやる。

もしヒューイが異変に気づいていなかったら、対処が遅れて袋叩きにあっていたことだろう。


「居眠りしてた、ごめん」

「私が先に寝たのよ。ごめんなさい」


「いいのよお! 命あってのことだからよお!」

「お利口なワンちゃんね。グッホーェ」

「謝るよりこの先のことを考えたほうがいいよお」


田中に言われてスイッチを切り替える。

懐中時計を見ると自国は三時五十分だった。

微妙な時間だが、あとすこし待てば空が白みはじめる。


「弾丸を消費しすぎた。予定より一日早いがここで引き返す」

「本当にごめんなさい」

「いいってことよお」


僕らは予定していた三日の行程を諦めて、帰途についた。

最終的に到達できたのは西国分寺駅の直前までだったけれども、これで今までよりも多くの状況を把握できた。

ゾンビの大規模集団との戦闘は想定外だったが、それでも以前と比べて格段にゾンビの数が減っていることが分かった。


動物園から逃げた動物たちに狩られるはずなので、これからもどんどん減っていくはずだ。

今回のように立ち回りさえ失敗しなければ、更に都心部へ進行できるだろう。

しかしそのためには大規模戦闘に備えた武装が必要不可欠だ。


一体どうやってあの集団に立ち向かう?

そもそもあの数のゾンビが、西方に移動せず残っていたのはなぜか。

疑問は尽きなかったが、ともかく僕たちの任務は終了した。

いいや、家に帰るまでが任務である。

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