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サイケデリック・ゾンビ

道の真中にやたらとカラフルなゾンビがいた。

気温は36.7℃、照り返しのせいで体感ではそれ以上の暑さに感じられる。

アスファルトに近い地面は熱でゆらゆらとうごめいている。

それが余計にカラフルなゾンビの印象を濃くしていて、前後左右にふらついているゾンビの動きを、まるでタンゴかワルツでも踊っているかのように演出していた。


ゾンビの格好を特筆しておこう。

彼はキャサリンのオーランドがかぶっているような帽子を頭にのせていて、上着はサイケデリックな模様のシャツ、下は赤と黄のシマシマ模様のベルボトムといった服装だった。


陽光を反射して顔部分がやたらとキラキラしているので、何事かと思ってスコープを覗くと、顔にスパンコールのついたシールが何枚も貼られていた。

それだけではない。

耳には金属製の巨大なピアス、唇にもトゲトゲのピアスをしていて、それらが太陽光をはね返して輝いていたのだ。


「ふっ、こいつは頭がおかしいぜ」

僕は言った。

「ええぇ? アタシはセンス良いと思うわ。店に来てた常連さんとそっくり」

「迂回するか?」


運転をしている田中が指示を仰いでこっちを見る。

サイケデリックゾンビは見た目の奇抜さこそ最強だったが、動きからして能力は通常のゾンビと大差ないように思われたので、そのまま直進して轢けと命じた。


「轢かなくてもいいじゃない。悪さはしてないんだし」

殺生を嫌うマミは言ったが

「今は大人しくても別の誰かを襲うかもしれん」

いい加減殺生に慣れてほしいものだ。

ゾンビに同情しても一文の得にもならない。


ハンヴィーは順調に走行して、後2メートルでゾンビを跳ね飛ばすところまで来た。

だがその瞬間、サイケデリックゾンビが驚異的な跳躍を見せ、車の後方に着地した。

後部座席にいた僕は急いで振り返った。


ゾンビの背中に翅が生えている。

先ほどまでは無かった翅だ。

「どういうことだ?」


翅は折りたたまれて、ゾンビの背中に隠れて見えなくなった。

再度跳躍したゾンビが、ハンヴィーの屋根に乗る!

上部装甲カバーを装着したOGPK(銃座を囲む装甲板)が装備されているので、走行中で揺れている最中、ゾンビのおぼつかない足取りでは車中に侵入できない。


だがそれは僕たちも同様で、狭い車中で揺られながら銃で応戦しようものなら、たちまち誤射の連続である。

「田中、振り落とせ!」

「アイアイサー」


スピードが上がる。

左右の振れ幅も大きくなり、僕たちは掴まっていないと倒れるくらい揺さぶられた。

マミが一生懸命ヒューイを支えている。


銃座の一部をがっしり掴んでいるゾンビはなかなか振り落とされない。

カーブに差し掛かって、田中のハンドルさばきが見事なドリフトを決めると、ゾンビは銃座の部品を引きちぎって吹っ飛び、ブロック塀に叩きつけられた。


そのまま走り去ってもよかったのだが、結果を確かめておきたくて、59mほど離れた場所に車を停めてもらい、後方を見た。

サイケデリックゾンビは地面に伏したまま動かない。


2分は見続けていただろうか。

ゆっくりと立ち上がったサイケデリックゾンビは、どうやら衝撃で前後不覚になっているらしく、僕たちの様子にはまったく気づいていなかった。


ゾンビはキョロキョロ辺りを見回して、折れ曲がった片腕を高く上げ、もう片方を下げて

「ポーゥ!」

叫んだ。

「ポーゥ! ポーゥ! ポーゥ!」


叫びながら歩いて、やがて街中へ消えていった。

それでもしばらくは「ポーゥ!」の声が響いていて、すこぶる怖かった。


「死してなおダンシング魂を忘れられないのねえ」

中島が感慨深そうに言う。

「俺、なんだか悪いことしたな」

それにあわせて田中が反省したようなことを言う。


「ほら、やっぱり悪いゾンビじゃなかったでしょ」

マミが誇らしげにこっちを向いた。

「いや、僕たち襲われかけたよね? あれは見間違い?」

「あれはあれ、これはこれ」


なぜ僕が怒られなくてはならないのか。

まったく納得がいかないゾンビ騒動だった。

それにしても、「ポーゥ!」はやはりあの人の影響なのだろうか。

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