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F-4 Phantomの光

挿絵(By みてみん)


てんびん座の方向に点滅する光が見えたのは深夜3時頃だった。

マミに星の名前を教えているときに、視界を横切る光が見えた。


危うく見逃すところだった。

なぜなら現代人の意識の中では、動く光=飛行機のものというのは常識である。

だからその光が真っ直ぐ横に動いているのを捉えたとき、無意識に「ああ、飛行機が飛んでいるな」とは思ったものの、それ以上言及しようとは思わなかった。


マミにあれはなんという星かと尋ねられて、ようやく僕たち以外の生存者が何らかの手段で空を飛んでいるのだと悟ったのだ。

しかし僕ら自身、日本で騒動が起きたあとに飛行機で帰国している。

おそらくそれを見た地上の人は、まだ生きている人がいて、飛行機に乗っているのだと思ったことだろう。

それと同じ状況だ。


「違う、ぜんぜん同じじゃないわ」

マミは興奮して言った。

声で目を醒ましたのか、田中と中島が何事かと聞く。

「あれを見てみろ。飛行機が飛んでる」


「そりゃあ飛行機は飛ぶだろうよお。飛ばないならただの“機”だからよお」


彼は寝ぼけていてトンチンカンなことを言った。

つい先程同じように考えた僕は彼を責められない。


「あのスピード……民間の旅客機とか、ましてやプロペラ機じゃ絶対にない。あれは戦闘機よ」

「戦闘機? そんなものを動かせる国が、どこかにあるっていうのか」

「詳しいことはわからない。でもあの感じだとたぶんF4 Phantom じゃないからしら。自衛隊にも配備されているから、日本の戦闘機かも」


日本の戦闘機が何の目的で飛んでいるというのか。


「まさか爆弾? バイオハザードでやったみたいに、核爆弾でゾンビを片付けようってのか」

「そんな高威力の爆弾が自衛隊にあるの? ないでしょう。偵察任務ね」


考えられる状況から戦闘機の正体を推察してみた。

日本の機だとして、本土の基地のどこかが生き残っていて、そこから発進した説。

これなら航続距離から言っても問題ない。


海に囲まれた沖縄がまるごと無事で、そこから米軍ないし自衛隊の機が飛んできた説。

フィリピンが無事だとすれば考えられるが、沖縄から来て給油無しで戻るのは不可能だ。


アメリカの空母が太平洋かどこかに浮かんでいて、そこから飛んできた説。

日本の近くにいるのならありうる状況だ。

本土の様子を調べるために飛ばしたのであれば説明がつく。


どの説にしても、焦土作戦を実行する確率は低いと考えられる。

日本の機であればそのような爆弾は持っていないだろうし、アメリカの機であれば他国に爆弾を落としてまでゾンビを攻撃する理由がない。

いくら戦好きのヤンキーでもさすがに常識はわきまえているはずだ。


「あらやだチョー格好いいじゃない。イカすわね」

中島は呑気のんきに眺めている。


ものの数十秒だったが、戦闘機の発見は僕たちに大きな印象を与えた。

もはや終末の日だと思っていたのが、一瞬にして希望はあると思えるようになった。

戦闘機がたった1機飛んでいるのを見ただけでこの有様だ。


戦闘機を飛ばすだけの余力がある国がどこかにある。

まだまだ捨てたもんじゃないぞ、と僕たちは生き延びる決意を新たにした。



楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽



日の出まではまだ時間があったが、戦闘機を見て興奮した僕はなかなか寝付けなかった。

隣ではマミがぐっすり眠っている。

よくもまあ眠れるもんだと感心しつつ、今日はもう眠れそうにない僕は田中と中島の雑談に加わることにした。


「俺が戦闘機を持ってたら、ブラジルに行くな」

田中がぼんやりと言う。

「なんでブラジル? あんたブラジルって顔じゃないでしょ」

中島は寝覚めがいいタイプらしくハキハキ喋る。


「地球の裏側ってやつを一目見てから死にたいのよお」

「死ぬなんて大げさ。戦闘機に乗ってるんだから、無人島にでも逃げればいいじゃない」

「イヤだね。俺ぁココナッツアレルギーなのよお」


「何もココナッツだけが食料じゃないじゃない? あなたLOSTって見たことある? アタシ、マシュー・フォックスの大ファンなのよ。LOSTでは無人島に着陸した大勢が、サバイバルしてたわ。何食べてたかは忘れちゃったけど、きっとココナッツ以外もあったはず」


「ココナッツを食べなくてもいいなら、無人島でもいいよなあ……」

「そうしなさいな。ブラジルなんか行ってもつまんないわよ」


話に加わるタイミングがない。

それどころか、どうしてこの二人がこんなにも噛み合っているのかが謎だ。

ブラジル? ココナッツ? 今話すべきはそれか?

話に加わるだけで脳細胞が数十万個死にそうだったので、僕は耳をふさいで眠る努力をした。


結局寝付けなかったけれども、ウトウトしているだけで前日の疲労はそれなりに回復した。

早朝、起きだした全員でラジオ無しのラジオ体操をして、ハンヴィーを出す。

二日目は出来るなら一気に距離を稼いでおきたい。


立川では手に入らないような物資があれば、随時相談してハンヴィーに積み込む。

もう九月だというのに、今日は朝から気温が高く、昼にはアスファルトだらけの街中は35℃を越しそうな陽気だった。

忙しくなりそうだ。

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