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ボルネオオランウータンとゾンビが戦う

挿絵(By みてみん)


遠征初日、国立駅まであと僅かな距離まで来たところで、僕たちは信じられないものを目にした。

多摩動物公園から脱走したと思われるボルネオオランウータンが、ゾンビの中規模集団と格闘している。

オランウータンは群れでは行動せず、単独を好んで生活する。


そのオランウータンも見たところ一匹狼のようだったが、驚くべきは体格である。

通常1.4m程の雄のオランウータン。

けれどもゾンビと格闘している個体は、1.6mはありそうな巨体だった。


さすが森の人とまで言われるオランウータンだ。

遠距離から眺めていると、毛むくじゃらではあるが人間と遜色なく見える。

賢人、という言葉が似合うその個体は、明らかにボス格のオランウータンだった。


1体のゾンビが、オランウータンの背後から忍び寄る。

ゾンビネーションと言うべきか、前方のゾンビがマイケル・ジャクソンのスリラーみたいな動きをしていて、背後から忍び寄るゾンビを援護している。

だがそんな技は森の賢人に通用するものではない。


目にも留まらぬ早さで振り返ったオランウータンが、ゾンビの顔面にパンチを浴びせる。

パンチ、と言ったけれど、実際には振り返りざま腕が当たったにすぎない。

直撃を食らったゾンビの頭部はザクロを叩き割ったかの如くに破裂した!


次に、不用意に前方から歩み寄ったゾンビが地面にねじ伏せられ、まるで木の枝を折るように脊椎をじ切られる。

2体の棒立ちだったゾンビは、片方が跳びかかったオランウータンの蹴りを受けて転倒、勢いで跳ね返ってもう1体の頭部に噛み付いて、頭蓋を砕き割った。


オランウータンの口元はゾンビの血で赤く染まった!

懲りないゾンビは徒歩で襲いかかるも、またもや地面に押し倒され、500kgの握力で首元が切断された。


二十分間は観察を続けただろうか。

文字通りちぎっては投げちぎっては投げの大立ち回りだった。

全部で58体いたゾンビはもはや4体しか立っていない。

あとは頭部を潰されて絶命したか、絶命はしないまでも身動きが取れなくなって這いつくばっているかだ。


野生動物に対抗できる人間の身体能力は、投擲と持続力だという。

二足歩行に進化することによって前足を発達させ腕となった人間は、他の霊長類とは一線を画した運動能力をその腕に宿している。

体毛を廃して発汗機能を進化させ、丸一日でも走っていられる能力を手にした人類。

何日間も獲物を追跡して敵の体力消耗を狙う狡猾さは、今のヒトにも本能として残っている。


投擲と持続力、そのどちらも失ったゾンビが、オランウータンに勝てる道理などなかった。

最後の4体も早々に粉微塵となり、勝利者オランウータンは、まさしく勝利者にふさわしい堂々たる4足歩行でその場を後にした。

ちなみにオランウータンはゴリラと違ってナックルウォークで歩かない。


貴重な光景だった。

このご時世でなければ絶対に見られなかっただろう。

しかしゾンビとはいえ人間を襲うことに慣れているオランウータンだ。

僕たちと鉢合わせたときに襲ってこないとも限らない。


この分では他の動物も逃げ出しているとみた。

ライオンやオオカミと遭遇しては厄介だ。

走行中は絶対にドアを開けないよう、三人に言い聞かせた。

また、休憩中も決して一人で行動しないよう注意した。


出発から6時間、早くも予想外の状況になり、僕も動揺していた。

ゾンビ以外を撃つ訓練などしていない。

嫌な予感がした。マミの手を強く握る。

大事にならなければいいが……。

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