ゾンビが畑を荒らしていたので撃つ
明朝晴れて台風一過となったその日、気温が上る前に野菜に水をやっておこうと一階に降りた僕は、敷地の端のほうからゴソゴソ物音がしているのに気づいた。
二階に全員揃っているはずだ。
降りるときに見張りの鈴木と阿澄に挨拶をしたし、田中とマミはまだ眠っている。
ベレッタ92を取り出して、こっそり敷地に出てみると、物音は畑のほうからしていた。
逆ハの字に積んだ土のうが壁になって、工場の入口からは畑が視認できない。
しかし二階の鈴木たちからは畑が見えているはずだ。
肥料を撒きやすいようトイレの横に作られた畑は、二階から一望できる。
物音は依然として続いている。
小型無線機で二階に連絡すると、鈴木も物音には気づいていたけれど、何も見当たらないので風の仕業だと思っていたという。
ゆっくりと畑に近づく。
やはりどこにもゾンビの姿はない。
トイレの裏側を見たとき、地面に伏したゾンビが夢中で土を掘っているのとかち合った。
ゾンビ目もくれず土を掘り返している。
それはマミが大事に育てていたカボチャが植えてある場所だった。
「やめんかこのカボチャ泥棒が!」
頭めがけて銃弾を撃ちこむと、ゾンビは50cmばかり吹き飛んで沈黙した。
せっかく育てていたカボチャの苗が掘り起こされて、無残に散乱している。
不幸中の幸いか撒き散った脳漿は畑を避けて広がったため、その部分だけ土を捨てれば問題なさそうだった。
土を捨てる作業を田中にも手伝わせるため、一旦二階に戻った。
銃声を聞きつけてふたりとも目をさましている。
「何かあったの? ゾンビ?」
「ああ、畑を荒らしていたんで撃った」
「畑ってどういうこと? 私のほうれん草は無事なの?」
血相を変えて阿澄が叫ぶ。
「俺のブロッコリーは大丈夫なんだろうな?」
普段はクールな鈴木もこの慌てようである。
「ほうれん草もブロッコリーも無事だ。でも……」
「でも何なのよ?」
マミが怯えきった声で言う。
「カボチャは駄目だった」
マミは悲しみに打ちひしがれた様子で、静かに「そう」と言っただけだった。
僕はこんなときにどんな顔をしたらいいのかわからなかった。
野菜嫌いだからと言って何も植えなかった田中は、事態を飲み込めていないようだった。
田中と一緒に土を片付けていると、マミが降りてきて僕の肩に頭を乗せた。
あれから少し時間が経って落ち着いたらしい。
「今から植えて、セロリならちゃんと生るかな」
「どうだろう。今度種を探してくるよ」
「お願いね」
それを言うと彼女はまた二階に戻っていった。
それにしてもゾンビが畑を襲うなんて聞いたことがない。
このところ雨が続いていたせいで、気が変になっていたのだろうか?
これからは畑周りも重点的に警戒する必要がありそうだ。
菜食主義のゾンビ、そんなものが本当に存在しているとして、死んでいるのに更に健康になってどうするつもりなのだろう?




