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狩り

獲物はすぐに現れた。

捜索開始から三十分も経たないうちに、街角から一体の棘付きゾンビがひょっこり歩み出てきた。

棘付きゾンビは通常の歩行ゾンビと同じく、歩いているときには音を立てない。

だから発見から処理するまで即座に行わなければならない。

対応を誤れば串刺しになる。


香菜がL115A3を構え、引き金を引く。

.338ラプアマグナム弾が正確にゾンビの頭部を捉え、トゲトゲした頭を確実に破壊した。

胴体が横たわり、発砲音の余韻が残る中、僕たちはじっと針付きゾンビの死体を眺めていた。

頭部を失った胴体から生えた針が、モゾモゾ動いている。


「うそ、なんで……?」

仕留めた当人が一番驚いている。


「鈴木、頼む」

「アイアイサー」


鈴木と中島がペアでゾンビの死体に近づき、Vepr-12 Molotによる近距離射撃で心臓を潰す。

心臓を撃ち抜かれてもなお針は動き続けていた。

だが脳と心臓を破壊した以上、四肢の動きは止まっている。

動けなければどうということはない。


「完全に処理するのはひとまず置いておこう」

僕は言い、部隊を率いてその場から移動した。

なるべく多くの針付きゾンビを仕留めておきたい。


しばらくは単調な作業が続いた。

針付きゾンビが現れては仕留める。

頭部を破壊したあとで心臓を潰し、動いている針は見なかったことにしてその場を去る。


最初に仕留めた個体から一本の針を採取していたから、死体に用はない。

針は持ち帰ってユキに分析を頼む。

仕留めた端から死体を燃やす手もあったが、荷物が多くなるのでやめにした。

その選択を後悔するのに時間はかからなかった。


爆発音のような大きな音が街に轟いた。

僕たちは歩くのをやめて、音のした方向に注意を向けた。

市街地のほうからした音が、だんだんと大きさを増しながら近づいてくる。

視界内に黒い塊が現れた。


真っ先に動いたのは遠距離狙撃担当の香菜と阿澄である。

彼女たちは黒い塊に向かって撃ちまくった。

遠方にいるにもかかわらず、かなりの大きさがあるように見える塊は、.338ラプアマグナム弾を食らってもなおひるむ気配すら見せず猛突進してくる。


「ダメ、効かない!」

阿澄が叫ぶ。


塊が前方50m地点に来る頃には、僕たちは全員逃げ腰になっていた。

コロコロ転がってきた塊は銃弾の雨を受けても勢いが落ちず、とっさに飛び退いた僕たちのあいだを猛スピードで通り抜けていった。


銃弾は効いていないわけではない。

塊が通り過ぎたあとにはどす黒い血痕が残されている。

問題は急所がわからない形状にある。


「散開して攻撃だ!」

僕は言った。


それぞれがツーマンセル、スリーマンセルになって廃墟となった街に飛散して隠れる。

示し合わせての作戦ではなかったが、長く一緒にいただけあって僕の意図を汲んでくれた仲間たちに、感謝~。


僕はというと、傍にいたマリナとペアになった。

隠れるために飛び込んだのはコンビニエンスストア。

割れた自動ドアの隅から顔を出して、塊の様子を窺う。


「見てみろ、あいつにも針がついてるみたいだ。あっ、マリナちゃん久しぶり」

「お久しぶりです」


僕たちは短い挨拶を交わした。


「どうします。撃ちますか」

「いや、まだだ」


単発とはいえ.338ラプアマグナム弾をものともせず襲い掛かってきたゾンビに、自動小銃の弾が効くのだろうか。

僕の手にはAKMがある。

マリナは89式5.56mm小銃を持っている。


塊の大きさは、体高5mくらいある。

5mというとだいたいケラトサウルス並の大きさだ。

僕たちを追い抜いたところで急停止した塊は、その場で止まったまま動かない。

まるで僕たちが出てくるのを待っているかのように、制止して棘を震わせている。


「我慢比べがしたいらしいな」


時間をかけてくれるならありがたい。

そのあいだこちらはゆっくり作戦を練れる。

僕はマリナと小声で喋った。


「今頃、香菜と阿澄が距離をとってるはずだ。他のみんなも陣形を整えてるはず。攻撃開始の合図は狙撃音だ」

「飽和攻撃ってことですか。アレが弾を受けておとなしくしててくれるんですかね」

「無理だろうな。だからそれはこっちで対策をとる」


銃弾も当たらなければ意味がない。

攻撃を効果的にするには敵を足止めする必要がある。

あの馬力がありそうな突進を止めるのは並大抵ではない。


「下部の針だけでも動きを封じられないものか」

「何百本もある針を全部封じるなんてできませんよ」


突進、針、ゾンビ。

把握している敵の特徴は少ない。

弱点があるのかどうかもわからない。

だが、殺らなければこちらが殺られる。


「こうなりゃヤケクソだ。店にある洗剤で塩素ガスでも作って吸わせよう」

「あんな風通しのいいところで……効果があるんですか」

「針の隙間にぶち込めさえすれば、あるいは」


やはり接近戦は避けて通れない。


「攻撃が始まったら僕が出ていってガスを浴びせる。君はいつでも逃げられるよう準備しておいてくれ」


僕はガス製作に取り掛かった。

攻撃まで時間がない。

急いでポリタンクに洗剤をつめていく。

僕が失神しないよう細心の注意を払いながら、店の奥で作業をした。

そのとき、外で一発の銃声がした。

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