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いかにもスムージーって感じのスムージー

夜空の発光現象について、僕なりに調べてみた。

大気が発光する事例はいくつかあるが、おぼろな光を発するものが主で僕たちが見たような強い光が見える事例は聞いたことがない。

あれはまるで宇宙船からの光のようだった。

今は宇宙人説は置いておくとして、他に考えられる原因を探してみた。


準恒星状電波源クエーサーは強力な電波と光を発する天体だ。

なんらかの原因でその光が地球上に降り注いだとは考えられないだろうか?

いや、もしそんなことが起これば、僕たちは放射能に焼き尽くされて死んでいるはずだ。

それにクエーサーは宇宙の彼方かなたに点在している。

いきなり地球の傍に来るわけがない。


彗星説はどうだ。

ハレー彗星のような大きな天体が公転軌道を通り、ばらまかれた塵が大気の成分と反応して強い大気光を発生させるに至った。

それもありそうにない。

なぜならそのような天体が地球の傍にあれば、騒動前の時点で観測されているはずだからだ。


観測されず、4年という短時間で地球に接近できる天体。

あの晩に浮遊ガス惑星が地球の近くを通ったというのはどうだろう。

どこかの恒星系で超新星爆発が起こり、星系から弾き飛ばされたガス型惑星が偶然地球の傍を通り過ぎた。

惑星表面の雷光が地球を照らしたというのは。


雷光が見えるほど近くにガス惑星があれば、地球の大気や地殻が無事で済むはずがない。

下手をすれば地球自体の公転軌道にも影響が出て、浮遊惑星と一緒に宇宙の彼方へランデヴーしてしまう。


「どうにも謎だな……」


マミの書斎で百科事典とにらめっこしていた僕は、諦めて顔をあげた。

昔の人は家に百科事典を揃えておくのがステータスだった。

子供の頃、大人になったら百科事典を揃えるのが夢だった。


僕は平成の生まれだから、今考えればずいぶんと古い子供だったなと思う。

ズラッと本棚に並んだ百科事典を、端から端へと読んでいく。

読み終える頃には万物を理解できると本気で思っていた。


年を取り、インターネットを利用するようになると、百科事典の魅力は激減した。

もちろん紙の事典にも良さはあるが、ネットの利便性にはかなわない。

やがて百科事典を夢見ることもなくなり、キーボードをぱちぱちやって満足する大人になった。


電力が途絶え、サーバー管理人がゾンビになり、配線業者が死肉を食らう世界になって初めて、僕は百科事典を手にした。

こうなると断然紙のほうがいいなと感じる。

電力いらずで保存状態がよければ100年でも使える。

場所をとるのが難点だが、家具の一種だと思えば悪くない。


「どう、なにかわかった?」


脳内で紙の素晴らしさをたたえていると、マミがやって来た。


「わからん、謎だよ」

「休憩したら? あっちで待ってるから」


リビングに行くと、テーブルの上に得体の知れない色の飲み物が置いてあった。


「いちごのスムージーを作ったのよ」

「よく材料が手に入ったな」

「さっき狩人ハンターが届けてくれたの」

「へえ、あとで礼を言っておかなきゃな」


ほどよい甘さで美味いスムージーだった。

なんというか天然の甘さがイイ。

スムージーには詳しくないが、これはスムージーらしくないスムージーで、スムージー的な口当たりの半スムージーのようでありながら、いかにもスムージーって感じのスムージーだ。

うーん、スムージー。


「スムージーの味がする」

「スムージーだって言ったでしょ」


飲み終わってから、僕は改めてマミに向き直った。

彼女もなにやら察したらしく、姿勢を正して僕を見る。

お腹はまだ出ていないが、これでいて彼女はもう立派な母親なのだ。


「阿澄と話したよ。叱られた」

「ごめんなさい、私そんなつもりじゃ……」

「君は悪くない。悪いのは僕だ。しっかり向き合おうとしなかった」


しばしの間。


「僕が持ちかけたのに、ずるいよね」

「私が誘導したようなものだから」

「でも先に言いだしたのは僕だった」

「そうね」


さてなんと言ったものか。

改まると逆になんと言っていいのかわからなくなるものである。


「僕が最近家をあける機会が多いのに気づいてた?」

「忙しそうだなとは思ってた。ユキのこともあったし」

「いづらいなって思ってたんだ、家に」


マミは黙った。


「父親になるってことが想像できなくて、君の顔を見るのが怖かった。責められてるような気がしてさ。でも阿澄のおかげで踏ん切りがついた。心配かけてごめん、これからは夫として、父親として分別ある行動を心がけます」


人と人はすれ違うものだ。

他人の感情は決して理解できない。

理解できないからこそ歩み寄らなければ、互いに牽制し合ったままだ。


「はい、わかりました」

マミは言った。


つまりどういうことかというと、阿澄が僕にいったことはカマかけで、マミは浮気を疑っていたのだ。

相手はユキかもしれないし、希美かもしれない。

香菜ということもあるかもしれない。


マミらしくない合理性に欠けた思い込みではあるけれど、妻の妊娠中に浮気をする男性は一定数いる。

原因は単純で、夜できなくなるからだ。

物理的にはできるけれど、なるべく避けた方がいい。


それまでしていたことをしなくなり、精神が不安定な時期に頻繁に外出する夫。

初めての妊娠、産婦人科にも行けず、唯一頼れるユキは床にしている。

不安が爆発するのは当然だ。


だから僕には不安を解消させる義務がある。

当たり前だが浮気はしていないしするつもりもない。

機会があったらあわよくばという気持ちはないではない。

しかしやっぱり浮気はよくない。

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