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高尾駅での掃除

廃墟、廃墟アンド廃墟。

廃墟好きにとっては垂涎すいえんの光景の中を歩いて行く。

高尾駅前はそれなりに栄えている。


高尾といえば田舎を想像しがちだが、腐っても東京だ。

山梨県や長野県に向かうための最後の砦。

逆に言えば、南から流入してくるゾンビはここ高尾を経由してくる。

塞いでおくのが定石だろう。


先ほどよりも長い縄をゾンビにくくりつけて、解放した。

今度は200mある。

これで付近一帯のゾンビがたむろす巣を暴き出す。


巣が見つかるまで僕たちは檻周りに陣取って時間を潰した。

縄は緩んだり張ったりを繰り返している。

なかなか巣を発見できないでいるようだ。


AKMを持って街中に座っていると、中東のゲリラにでもなったような気分になる。

特区に長くいたせいで、ゾンビに対する危機管理能力が落ちている。

高尾は危険だ。

特区の防衛網の外縁部に配置してある対ゾンビ装置の効果範囲外だから、多くのゾンビが残っている。


ユキの読みでは、高尾や山梨にかけてのゾンビは先の戦闘に動員されていない。

特区を襲ったのはあくまでも北のゾンビで、日本にはまだ数多くのゾンビが残っている。

だが北のゾンビは、ほとんどすべて殲滅できたといっていい。


たとえ生き残りがいたとしても、精神を司っていた賢いゾンビはもういない。

並の知能しかない歩行ゾンビや翅型ゾンビは自然消滅、餓死するのがオチだ。


それでも特区周辺には、一定数のゾンビが存在している。

歩行ゾンビ、翅型ゾンビ、強化ゾンビ、河童。

これはユキいわく南から来たゾンビだという。

つまり北と南のゾンビがちょうどぶつかる地点が東京というわけだ。


瓦礫が崩れる音。

檻の周りにいた全員が音がした方向に目をやる。

崩れた建物の中から、筋肉隆々の強化ゾンビが現れた。

全身が砕けたコンクリートの白い粉まみれになっている。


「いや、いいよ。僕が殺る」


銃を構えた部隊員を止め、僕は狙いをつけた。

タン、タン、と二回引き金を引く。

一発目が脳幹を撃ち抜き、二発目が側頭葉を破壊した。


強化ゾンビは倒れる前に天を仰いだ。

口から噴水のように血を吹き出し、後ろ向きにぶっ倒れる。


「さすがですね、武田さん」

部隊員のひとりが近寄ってきて言った。


「あれくらいやれなきゃ生きていけない」

「仕事人って顔でしたよ」

「あんまりジロジロ見るなよ」


「縄の動きが止まった。行くわよ!」

ユキの指令で全員立ち上がった。



楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽



廃墟となったサイゼリヤの前で、僕たちは建物の中を観察していた。

縄が伸びているのはサイゼリヤの中だ。

入り口は開けっ放し、しかし窓には木板が打ち付けられていて、内部の様子がわからない。


「生存者の痕跡だ。でも今は……たぶんダメだろうな」

僕は言った。


このように、既に壊滅してしまった生存者たちの痕跡を見つけることはままあった。

もっと早く来ていればと悔やまれるが、運命だと思って諦めるしかない。

建物の二階にあるサイゼリヤの窓に打ち付けられている板は、どう見ても人の手によるバリケードの跡だった。


「どうやって攻める?」

僕は尋ねた。


閃光手榴弾スタングレネードを使おう」

ユキが言った。


「ゾンビ相手に効くのか?」

「視覚と聴覚に頼って動いてるのは人と変わらないわ」

「よし、じゃあそれで」

「縄が巻いてある個体はなるべく撃たないでね。そんなに意識しなくてもいいわ、死んだら死んだで次を捕まえるから」


一人が壁をよじ登って、窓に張り付いた。

彼が陽動として射撃し、閃光手榴弾を投げ込む。

正規の入り口に待機した僕たちは、爆発音を合図に突撃する。


作戦が開始された。

突入すると、暗い室内には所狭しとゾンビが並んでいた。

歩行ゾンビや強化ゾンビ、ざっと見積もって200体はいるだろうか。

体が折り重なっているので、閃光手榴弾の影響を免れた者もいた。


入り口の近くにいたのがそうで、突入と同時に襲ってきた。

だが心配はいらない。

7.62x39mm弾を適確な位置に打ち込んでいく。


窓に張り付いた部隊員も板の隙間から応戦した。

強襲にあい、視覚と聴覚を奪われ、二箇所から一度に攻撃されたゾンビは混乱したようで、四方八方に攻撃を繰り出した。

閃光手榴弾の影響を受けなかったゾンビもとばっちりを食い、仲間であるはずのゾンビに殴られて吹っ飛んだりした。


その間も僕たちによる射撃が止むことなく続けられ、あっという間にゾンビの山は死体の山になった。

思った以上のゾンビがいたため、縄が縛り付けてある個体は見分けがつかず、戦闘が終わってからはじめて入り口の近くでぶっ倒れているのが見つかった。

外に出てユキに状況を報告した。


「ダメだった。縄のヤツは死んだよ。それでもヤツのおかげで200体級の巣を殲滅できた」

「200体か……まあまあってところね」

「生きてそうなヤツを探してくるか?」

「今日はやめときましょう。こいつの分析もしたいし、引き返すわ」


ユキは檻に入っている小型のゾンビを指差した。

よくよく見ると毛のないチュパカブラのようだ。


「おーい、引き上げだ!」

僕は散っている部隊員を招集すべく叫んだ。


大阪遠征の前にできるだけゾンビの総数を減らしておきたい。

このような雑用に意味があるのかと問われれば、あるいはないのかもしれない。

しかしゾンビの数が減ることは、ひいては特区の安全にも繋がる。

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