駅前で120mm迫撃砲 RTを拾う
通例のごとく清掃活動(車をどかしたり死体を片づけたり)をしていると、自衛隊の装甲車両が打ち捨てられているのを発見した。
僕と田中は期待に胸を膨らませ(車の前方から)近づいて動くかどうか確かめようとした。
けれども珍しく鍵が挿さっておらず、探しても見当たらなかったので、泣く泣く諦めることにした。
座席を探ってみても、めぼしい物は何もなかった。
隊員が個人で所有していたと思われるボールペン一本と、ジッポライターが転がっていただけである。
これを鈴木への土産にしようとポケットに入れたところで、車の後方を見に行っていた田中の呼ぶ声が聞こえた。
「これ、すげえよお! これは何だよお!」
「どうした、お宝か」
気分はトレジャーハンターである。
装甲車の後ろ側に倒れていたのは、120mm迫撃砲 RT二門だった。
残念ながら射出する120mm迫撃砲弾やガンパウダーは見当たらなかった。
おそらくどこかの基地に移動させる最中だったのだろう。
なぜ繋がれていないまま、まるで放棄したように転がっているのかは不明だったが、点検したところ十分に使用しうる感じだったので、持ち帰ることにした。
アメリカ軍基地を探索したときに、迫撃砲弾を何種類か見かけている。
本来はそれほど兵器・銃器が準備されていないであろう基地に、どうしてこれほど充実した備品が置かれていたのか、疑問は積み重なる。
しかし今は、この思わぬプレゼントに感謝し、喜んでおこう。
ハンヴィーに積んでいたウインチをのばして、迫撃砲に繋げる。
迫撃砲の下部には車輪がついているので、錆びたり壊れていたりしなければ問題なく動かせるはずだ。
だが、二門のうち一門の車輪は片方外れていて、しかたがないので二人で持ち上げてハンヴィーに積み込もうとしたのだが、動くわけがなかった(重量582kg)。
惜しいけれども、このまま置いていくしかない。
「でもよお、誰かに奪われでもしたら、厄介だよお」
誰かというのは、渋谷連合のことだろう。
「本当にそんな連中がいるのかね。連合というからには大規模な集団なんだろうが、たとえ本当に居たとしても、こんな立川くんだりまで足を運ぶかどうか。向こうには向こうでいろいろと大変だろうし」
実際のゾンビハザードで、映画のように無作為に歩きまわる人間はいないと思ったほうがいい。
なにせ年に何本もゾンビ映画が作られて、それを観ているのだ。
有事の際にどう立ち振る舞えばいいか、カインズホームやくろがねや、ワークマンやケーヨーデーツーに逃げ込んでもどうにもならないことは知れている。
どんなにゾンビ慣れしていない一般人でも、まずはじめに交番あたりを漁ってみるだろう。
昔懐かしいニューナンブM60が拾えるかもしれない。
次に調べるべきは警視庁関連施設だ。
もしSAT専用の武器庫を発見できれば、89式5.56mm小銃、MP5SD6が手に入る。
ゾンビが走るタイプであれば、手近な品で武器をこしらえて、籠城に徹していたほうがいい。
できれば200時間以上、最長で数年は籠っているべきだが、地下室やシェルター文化のない日本では難しい。
「砂でもかけておこうか。何もしないよりはマシだろうし」
「運んでくるよお」
そう言って彼は植え込みへと走っていった。
しかしそのとき、植え込みに寝転んでいたらしいゾンビが立ち上がり、かがみこんで砂を集めている彼の背後に歩み寄った。
「田中後ろー!」
「な、なな、な、なんだお前はよお!」
彼は愛用している日本刀を抜くと、ホームラン級のバッティング速度で真一文字に斬りつけた。
鈍い音がして、ゾンビの頭部が中空に舞う。見事な抜刀だった。
「お前はたまに超人的な動きをするな」
僕は呆れてそれを見ていた。