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ロメロゾンビは走れない

挿絵(By みてみん)


卒業旅行でセブ島に行った僕たちは、フィリピン人たちとくんずほぐれつの大立ち回りを演じた後、友人のマミが所有しているプライベートジェットで帰国した。

まず最初に驚いたのが、東京上空を飛んでいるときに見えた煙だ。

街は燃えて、高層ビル群は無残にも根本から折れ、関東平野は地獄絵図と化していた。


下に降りようかどうしようか。

僕がマミに訊くと、彼女は言った。

「降りるしかないじゃないの。燃料がないんだから」

それもそうか、と思った矢先、エンジンが火を吹いて弾け飛ぶ!


機長がいない。

どこへ行った。


マミが操縦桿を握って、体制を立て直そうとするも、一度バランスを崩した機体はなかなか元に戻らない。


死の淵に立っている。

そんなときに限って、どうでもいいことが目に入るものである。

窓の外は透けるような青空だった。


ああ、墜ちる、と悟った僕は胎児のポーズをとり内臓と脳を防御ガードした。

そして、この様子だと外は猛暑だろうな、と思った。

7月も終わろうとしていた、25日未明の出来事である。



楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽



立川の近くあたりにある米軍の滑走路を借りて着陸し、このままでは混沌カオスに巻き込まれだけだと判断した僕らは、米軍の装備をちゃっかりくすねることにした。

背に腹はかえられない。


基地内で米兵に会えればよかったのだが、期待するだけ無駄だった。

おそらくは同士討ちがあったのだろう。

武器を装備したままの死体がいくつも転がっていた。


死体に近づくのは気が引けたが、そんな悠長なことを言っている場合ではない。

なにしろ生死がかかっているのだから必死にもなる。


本当はAK47かドラグノフ狙撃銃が欲しかったのだけれど、あれはロシアか中東あたりにしか転がっていないので、仕方なくM16自動小銃とM24狙撃銃、ベレッタ92を手に街へ出た。

もともとの持ち主らしき男は倒れていた。


日本では一般人が許可なく銃を所持するのは違法だから、理由がなんであれ見つかれば逮捕される。

その銃が盗んだものであれば当然窃盗の罪にもなる。

だから僕は心の中で言い訳をした。


この銃は借りるだけ。

盗んだのではなく一次取得だと。


アドレナリンが過剰分泌して、妙な高揚感がある中、僕とマミは走った。

走って、走って、基地を抜け出て街中を走った。


東京とはいえ西の外れにある街だ。

それほど混雑していないと高をくくっていたのだが、道路は血まみれの人で溢れかえっていた。

それから異臭。


ゾンビだ、と僕は直感した。

彼らはワーワーと唸りながら肉片を咥えていた。

話しかけようにも僕は重度のコミュ障だったので、実際に確かめる先から「こいつらはゾンビだ」と決めつけた。


腰を落として、ベレッタ92をかまえた僕の腕を、マミが掴んだ。

「撃つんじゃないよ! たくさん寄ってきたらどうするんだい!」


そのとき僕は彼女のことを、ああ、なんか変な口調になっているな、と思った。

マミもまた僕と同じく取り乱していた。


僕は拳銃をおろして、ひとまず逃げることだけを考えた。

どこか身を隠せる場所を探さなければ。


のろのろと移動するゾンビを巻くのに長距離移動する必要はなかった。

興奮が静まってくると、先ほどは大量にいるように見えたゾンビも、実際の数はそれほど多くないことに気がついた。


通りに点在する彼らは一定数の集団を作っている。

彼らの視界に入らないよう注意しながら、僕とマミは移動を繰り返した。

安全そうな場所はなかなか見つからない。


やはり住宅街では厳しいと判断し、人がいなさそうな地帯を目指して歩いた。

そのような場所があるのかどうか自信はなかったが、しばらく行ったところに工場地帯と言うべき一郭が見つかった。

住宅街と較べてゾンビの数は格段に減っている。


「落ち着きましょう、落ち着きましょう」

マミがひとりでなにか言っていた。


「このあたりで身を隠せる場所を探そう」

僕は提案した。

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