表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
188/230

奇襲ニマケズ亀ノ攻撃ニモマケズ

挿絵(By みてみん)


直後、驚きのあまり僕は腰を抜かしそうになった。

音もなく特区上空にパンケーキガメが現れたのだ!

高高度から垂直降下してきたパンケーキガメは、ハヤブサのように羽を畳んで、特区めがけて下降してくる。


日が落ちてからは誰も上空など気に留めていなかったせいで、まんまと侵入を許してしまった。

一匹は見逃しても、二体目を見逃すわけにはいかない。

しかし手持ちの武器では、高速で下降してくるパンケーキガメに当てられない。


「誰か頼む……」

他の観測所や、壁に配置された警備員に任せるしかない。


後ろ髪を引かれつつ、銃声轟く特区を離れて合流地点へと向かった。

持ちこたえてくれさえすれば、充分に巻き返せる。

今はそう信じるしかない。


「くそっ、暗いな」

「もう少しの辛抱です」


街に仕掛けた罠を回避して、合流地点まで到達するのは至難の業だ。

ゲート周辺は特に念入りに罠を仕掛けてある。

間違った路地に進んだり、壁に近づいたりすれば即死亡だ。


イワンに渡された罠の配置図とにらめっこしながら、警備員たちを誘導して進む。

壁の外に降りていた人員のうち、半数をその場に残したのは作戦を気取られないためだった。

まさかゾンビ相手に戦略が必要になる日がくるとは思わなかった。


今、僕とともに合流地点に向かっているのは20人ほどだ。

二列より大きくならない幅で隊列を組んで進んでいる。

はみ出れば死亡、それも周りの人を巻き込むとなれば皆必死の形相で歩く。


時折、路地で歩行ゾンビを見かけた。

正面からの大軍の生き残りだ。

あの数をおとりにして、強化ゾンビを本陣に直接送るとは……。

ゾンビと思って油断していた。


「あの状況なら誰でも正面を相手しますよ」


希美はこう言ってくれたが、僕は違うことを考えていた。

喋るゾンビのことだ。

彼は正面にゾンビを集中させると言っていた。

それは実行された。



重機関銃の射撃があそこまで効果を発揮したのは、誘導があったからこそだ。

けれどもその先は?

正面に気を取られている隙に、地中を進んできた怪物に形勢を逆転された。


だからといって、事前に予想して対応策を練っておくなどできただろうか?

地面を掘る怪物は初めて見るタイプだった。

パンケーキガメもそうだ。

怪物のデータがなかった以上、僕たちにこれ以上の戦闘ができたとは思えない。


「くそっ、わけがわからん」


今の自分が騙されているのか、救われているのか。

たしかに芋虫ワームが現れたのはゲートの傍だった。

もしあれが他の壁近くや、特区の中心に現れていたら状況が変わっていただろう。

芋虫ワームに即対応できたのは、青年の助言が頭の隅にあって、僕と希美がゲートに来ていたからだ。


「合流地点が見えました。みなさんお待ちのようです」


配置図から顔を上げると、阿澄や鈴木の顔が見えた。

観測所には最低人数だけ残して、全戦力を上げて叩くという作戦だ。


「どうなってるんだ?」

鈴木が言う。


「奇襲された。ゲートは陥落、最後に見たときには生き残りが戦ってたけど、今頃はどうなってるかわからん」

「8分前から本部の応答がない」

「中心部まで侵攻してるってわけか。急いだほうがよさそうだ」


僕たちが合流して、結集した戦力は全部で70人となった。

イワンの部隊が独自に動いているはずなので、実際の数はもっと多い。


「心配だわ、マミ大丈夫かしら」

阿澄が言った。


「あいつだってダテに生きてない。殺るときは殺る女だ。武装はどのくらい残ってる?」

「使えそうなのは軽機関銃くらいね。私は狙撃班だったから、連射できるのは短機関銃サブマシンガンしか持ってない」


70人のうち3分の1がM249、RPK-74Mといった軽機関銃で武装している。

これが部隊の主火力となりそうだ。



楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽



ゲートまで戻ると、先ほどは閉まっていた扉が開いていた。

開いてるというより、無残に壊されているといったほうが正しい。

周りにはどこから来たのか歩行ゾンビがいて、特区内に侵入しようとしている。


それらを迅速に処理して、僕たちは特区内に入った。

パンケーキガメが着陸し、強化ゾンビの群れがいた地点には、今は何もない。

静かなものだ。

芋虫ワームの死体だけが転がっている。


「この馬鹿でかいのが例のアレか?」

鈴木が言った。


「ああ、こいつのせいで壊滅したんだ」


憎たらしい死体を一瞥し、先へと進む。

地上にも、壁の上にも立っている人影はゼロだ。


各方面で結集した部隊が、中心部を目指して進んでいる。

北、南、西、それぞれの方向から聞こえる銃声が、だんだんと近くなってくるのが分かる。

そのとき無線機に連絡が入った。


「こちら作戦本部、敵の大軍と交戦中、至急応援に」


銃声で聞き取りづらく、ノイズが混じった通信はすぐに途絶えた。

普段は冷静なマミが酷く取り乱していて、もはや一刻の猶予もないことを物語っていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ