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(ヤツらが押し寄せてくる音)

挿絵(By みてみん)


僕は正面のゲートの傍にある壁に立って、双眼鏡で空を見上げていた。

遠くのほうに何機ものドローンが飛んでいる。

開戦の準備は整った。

あとは空爆を待つだけだ。


ドローンに装備されているのは、ユキと元職人のおっちゃんたち共同で作ったクラスター爆弾だ。

僕なんかでは仕組みを理解するのに半世紀はかかるだろう。

ユキの説明では、小さな爆弾をいくつか内包した30kgの爆弾を空から落とし、爆弾は自由落下しながら空中で分解、中身の小爆弾が撒き散らされ地上に面攻撃を仕掛けるのだという。

爆弾を大きくするより、小さいやつを撒いたほうが効率がいいらしい。


爆弾が投下された。

黒い点が地上に向かって降下する。

敵は太陽が沈むのを待っているのか、空に翅型ゾンビの姿がない。

爆弾は何の影響も受けずに分解、あちこちから爆発音が聞こえた。


「開戦だ!」

無線機に向かって叫ぶ。


鳥が物音に驚いて飛ぶように、地上から翅型ゾンビの群れが飛びだったのを確認した。

まずはドローンを飛ばした斥候から意識を外させなければならない。

重機関銃が一斉に発砲する。


この距離では当たらない。

しかし当てるのが目的ではない。

こちらに誘導するのだ。


「上々だ、引きつけられてる」


射撃が中止され、単発での発砲に変わる。

空を飛ぶ翅型ゾンビとは違い、地上部隊は動きが鈍い。

地上のゾンビが前哨基地に到達するまでの予想時間は、だいたい3時間から4時間。

門正面の道路はほぼ直線で1kmある。


青年の誘導が上手くいけば、地上のゾンビは重機関銃の射程に入ってから1時間はまっすぐ歩き続けることになる。

これなら面目標に有効ではない銃でも、容易に敵を撃滅できる。


狙撃班はまだ撃たない。

翅型ゾンビが迫ってくる。


「緊張しますね……」

「今までにない規模だからな」


マンションに隠れていろと言うのも聞かず、希美はゲートまでついてきていた。

銃を持ちたがらない彼女も、89式5.56mm小銃を手にしている。

彼女が撃たなければならない状況にはしたくないものだ。


作戦本部ではマミと中島、カズヤが残って情報をまとめている。

主な指令はそこからくる。

最初僕は興奮して無線機を使ったが、本当はやってはいけないことだった。


そろそろ狙撃班が射撃を始める頃合いだというときに、マミから連絡がきた。

正面以外の方面からもゾンビが迫っているという内容だった。

やはり多方面から攻めてくるか。

僕は観察を続けた。


バレットM82の銃弾で、翅型ゾンビが真っ二つになるのが見えた。

飛んでいるゾンビが、途中で電源を切られたかのように落下していく。

街中にはデコイがいくつも置かれている。

銃声を録音したラジカセ、1/1田中人形などなど。


飛翔したパンケーキガメは、馬鹿でかい甲羅を12.7x108mm弾が貫通した衝撃で墜落した。

振り落とされた強化ゾンビの恨みがましい叫び声がこだまする。

銃弾の雨を逃れて特区近くまで迫った翅型ゾンビも、前哨基地や全方面に設置した観測所からの猛攻には耐え切れなかった。

彼らにはRPK-74M、M249軽機関銃を持たせてある。


再び無線機から報告があった。

地上部隊の接近に伴い、爆弾を起爆させるとのことだ。


イワンが置いた爆弾は、どちらかというと焼夷弾しょういだんに近い。

ナパーム剤で火の形を調整し、燃え広がらないが効率的に敵を足止めするようになっている。


夕暮れの街中、ところどころに炎の明かりがちらつきだした。

銃声に紛れて聞こえなかったが、焼夷弾はきちんと機能したようだ。


「もうそこまで来ているはずだ。敵が戦意喪失してなきゃ、今に現れるぞ」

「緊張します……」


希美の顔は引きつっていた。

角を曲がってくるゾンビの大軍が見えた。

あれだけの攻撃にもかかわらず、大量のゾンビが生き残っていた。


「発射! 発射!」

僕の声で、警備主任が赤旗を掲げる。

旗を上げたら本攻撃、これは僕のアイデアだった。


トリガーハッピーになった兵士は、射撃中止の合図を聞かない。

旗を目印にしておけば大丈夫かなと思ったのだが、効果の程やいかに。


1km先にいるゾンビが、まるで水がせき止められるかのように肉片と化していく。

青年の誘導が効いている。

ゾンビは列になっていて、一発の銃弾が複数のゾンビを貫通するよう並べられている。

ゾンビも本能で馬鹿らしいと感じたのか、脇道にそれる者もあった。


「北方から怪物の接近を目視しました」

マミからの連絡だ。


次いで北側から爆発音が聞こえる。

RPG-22の炸裂音だ。

いくら硬質の皮膚をもつ怪物といえど、400mmの鋼板こうはんを撃ちぬく成形炸薬弾けいせいさくやくだんを食らってはひとたまりもない。


「こんなもんかよ……」

僕は呟いた。


あれだけ準備しておいて、拍子抜けの結果である。

現代兵器を前にしては、ゾンビなど肉塊にすぎぬというわけか。

特区にいる警備員は、重機関銃の射手を除いて一発も撃っていない。


このまますべてのゾンビを撃ち倒して終了かと思ったそのとき、地響きとともにゲートの後方30mの地点が崩れ、大穴があいた。

削岩機のような巨大な顎をした芋虫ワームが顔を覗かせ、地上へと這い出てくる。

それに続いて、穴から強化ゾンビの群れがゾロゾロ現れた。


「こ、これはホビットの冒険に出てきたやつに似ている!」

僕は叫んだ。

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