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馬鹿な田中と異様な放送

霧が街を覆う日を見計らい、墜落した怪物を回収するため、僕と田中はハンヴィーで予想墜落地点へと向かった。

直線で300mくらいの地点に落ちたとはいえ、道のりにすると結構な距離になった。

なにせ道路の多くは停まったままの車で通行止め状態で、運良く空いている道があっても、ゾンビの集団とかちあわせれば迂回しなければならない。

頻繁に使用する道路は事前に道をあけてあったり、ゾンビ用のトラップをしかけてあったりするのだが、今回怪物が落ちた地点に向かうには、二本の未知の道路を通らなければならなかった。


事前に予測しておいたポイントをいくつか巡り、死体があれば調査する。

なければ引き返すという計画プランで、ポイントに着くまでに不具合が起きたり

予想外の事態に遭遇した場合は即引き返すという条件付きでの調査だった。


そんなことはしなくていい、というマミの言葉に逆らって、是が非でも調査すべきだと意見を押し通したのは、他でもない僕である。

以前仕留めた怪物とはどう見ても異なる形をしていた、今回の飛ぶ異形。

正確に姿形を知っておくべきだと思ったし、何よりも以前仕留めたとき、数日後に戻ってみると死体が跡形もなく消えていたのが気がかりだった。


誰かが移動させたのか、それとも自力で息を吹き返し、移動したのか。

後者はありえない。なぜなら僕自身が眉間に銃弾を撃ち込んだのだし

直後に倒れて動かなくなったのを直に見ているのだ。


「着いたよお!」


田中の声がして、ハッと我に返る。

ぼうっとしていて警戒を怠ってしまった。

これでは田中と同じだ。


「ライトを強くしてくれ。霧が濃くて見えん」


路面が照らされる。

道路は一面血糊がべったりと張り付いていて、明らかにそれは墜落した怪物が地面に叩きつけられ、もがき苦しんだ痕跡だった。

けれども死体は無い。這って移動した跡があり、血糊が路地の奥まで続いている。


路地の奥は霧のせいで視認できない。

道路伝いにどこか身を隠せる位置をさがしているのか、それともどこかで曲がってビルか民家に潜んでいるのか。

死んだように静かな街中には、怪物が潜んでいるような気配はない。


「だめだ、戻ろう。深追いは厳禁、これゾンビサバイバルの鉄則だから」

「けどよお、あれ」


車中から身を乗り出していた田中が指差したのは、小さな電気屋だった。

Panasonicと書かれた青い看板が掲げてある。



楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽



思わぬ収穫だった。手回し発電式ラジオ二つと、小型無線機トランシーバー三つ。

これで念願の情報にありつける。

といっても、情報源が生きていればの話である。


おそるおそるハンドルを回して、スイッチを入れる。

周波数を弄くって、人工的な音を拾えるかどうか試行錯誤してみる。

あまり期待はしていなかったけれども、周波数をNHKに合わせたとき、それは流れた。


「こちら渋谷区連合、こちら渋谷区連合、ただ今我が国は甚大な災害に見舞われ、政府並びにあらゆる国家機能が停止せり。よって仮に統治権を渋谷区連合代表ニシノ・マサヒロに移行するものとし、元号を平成からニシノへ改めることとす。こちら渋谷区連合、こちら渋谷区連合……」


異様な内容の放送は、NHK職員の手によるものではないことは容易に想像できた。

大方暴徒化した市民が局を占拠して、勝手に流しているのだろう。

放送の声はオートマティックに繰り返されて、一時間待ってみたけれども変化はなかった。


ただひとつ言えるのは、僕たち以外にも生存者はいて、独自の方法で生き延びている。

そのうちの一つである渋谷区連合は、日本の統治権を主張している……。

考えていた中での最悪は回避できたとはいえ、これでまた新たな問題が生じた。


まずは渋谷区連合とやらとコンタクトをとらなければならない。

話の通じる連中かどうか。

また、話が通じたとしても、理解ある連中かどうか……。


「みんな、どう思う」

「私は時間をかけて対処するべきだと思う」マミは言った。

「俺も同感。声の感じからして、たぶんヤンキーだろ」鈴木は言った。

「二人がそう言うなら、私も待つべきだと思う」阿澄が言った。

「俺はタイヤキが食いてえよお」

田中は馬鹿だった。

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