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精神を汚染するゾンビ

Cが朽ちたアパートに戻ると、ABは何事もなかったかのように横になっていた。

Aは見張りのため起きていて、出て行ったときと同様に戻ってきたCを見た。

Cは何も言わなかった。


三人の関係は仕事上の付き合いがあるだけで、今のように休憩しているときに仲良く雑談をすることは滅多にない。

それでも長田と杉浦が生きている時分は、二人が切り盛りしてくれたので会話が弾むことがあった。

上官なき今は誰も歩み寄ろうとしない。

元が無口のCはそれを苦痛とも思わなかった。


見張りの交代も、なあなあで行われた。

主にAとBが交互に起きて見張りをしたので、Cは朝方まで惰眠をむさぼることができた。

何度か目を覚まし、暗い中で外を見つめているAやBの姿を見て、「なぜ俺に見張れと言わないんだろう」と疑問を抱いたが、嫌な仕事を自分からすすんでやる実直さに欠けていたCは、ラッキーと思いこそすれ、申し訳ないとは露ほども思わなかった。


翌日、寝不足にもかかわらず常人の何倍ものスピードであるくABの体力に、Cは驚かされた。

ひとり満足に睡眠をとった身で、眠っていない彼らに遅れを取るわけにはいかない。

彼は実直でこそなかったが、したたかな男だった。


出世がかかった立川特区奪取作戦に参加できたのも、したたかに立ちまわったおかげである。

必要でない部分では力を抜き、必要な部分で負けん気を発揮する。

これが彼の処世術であり、強さの秘訣だった。


とはいえ限界はある。

ABの歩く速度は、もはや駆け足といっていいほどにまで速くなっていた。

背負っている荷物の重さは同じくらいなのに、距離がどんどん離れていく。


距離があいていくのを意に介さず、ABは無我夢中で走り、ついに全速力でダッシュしてCの視界から消えた。

後ろから何度も声をかけたのに、一向に取り合わず進んでいった二人の異常さに気づいたCは、途中から何も言わなくなった。

体力は無尽蔵ではないのだから、追っていれば夜には追いつけるくらいに考えていた。

現実にはもっと早くに追いついた。


はじめCは、ABが道の真中で疲れて座り込んでいるものと思った。

遠くから見た限りではそのような姿勢だった。

距離が縮まってくるにつれ、彼らが座っているのではないことがわかった。

人影は三つあった。


そのうちの一人が動いていて、ABと思われる二人は微動だにしない。

Cは身をかがめ横道に入った。

そして迂回してABのいる地点に向かった。


住宅の影から顔をだすと、昨日暗がりで見たゾンビがABを襲っているのが見えた。

Cは昨日、暗がりでゾンビを直接見たわけではなく、人影としてとらえたに過ぎなかった。

それなのに、一目見た瞬間あれは昨日の奴だと直感した。


異民族の祈祷師シャーマンのような格好をした女のゾンビが、力なく座り込むABの周りをグルグル周っている。

モスキート音のような甲高い音がして、Cは耳をふさいだ。

昨晩の頭痛が再び発症する。

血管が脈打ち、側頭部がズキズキ痛み出す。


拳銃で応戦しようにも、掌を耳から話した途端激しい痛みに襲われるので、Cはどうすることもできなかった。

ABの体が動いた。

腰の拳銃を抜き、銃口を自らの頭に向ける。

二人は引き金を引いた。


音が止む。

Cは頭痛が止んだことに気づいた。

祈祷師シャーマンのようなゾンビは、今度こそABの死体に食らいつく。


同僚の死を相次いで目撃したCは、絶望のうちに腰の拳銃をとり、仲間の死体を貪るゾンビに狙いを定めた。

距離にして13mほど。

頭を激しく動かし、肉を食いちぎるゾンビの頭を正確に狙うのは難しかった。

肉を飲み込む一瞬の隙に、二発の銃弾が発射された。


一発は顎の骨を砕き、二発目は片目を潰した。

ゾンビはCのいる方向に体をむけ、怪音を発した。

しかし顎の骨を砕かれたゾンビは、うまく音を発することができず、高いだけの悲鳴のように響いた。


三発目の9mm弾が頭部に命中し、祈祷師シャーマンゾンビは仰向けに倒れた。

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