巨大な奴をM82で撃ち落とす
巨大翅型ゾンビの飛翔を確認したのは翌日の午前8時頃だった。
もう全員が覚醒めて、朝食の乾パンを食べていたときである。
ヘリコプターのような音に気づいた僕たち全員は、自衛隊かアメリカ軍の救援が来たのだと思い窓に駆け寄った。
前方10km、建物の上スレスレを飛んでいる巨大な影。
異様な風体のそれは、明らかに敵意を持ってこちらに近づいてきていた。
「M82を持ってこい! 急げ!」
取りにやらせているあいだ、双眼鏡を覗いてどれくらいの猶予が残されているのかを計る。
かなりのスピードだ。戦闘ヘリには及ばないものの、通常のヘリコプターより速い。
五分もしないうちに交戦するだろう。
「はい、これ」
マミにM82を手渡された。
M24の三倍はある重量がずっしりと体にかかる。
「マミ、阿澄はM24、鈴木と田中はM4A1持って支持するまで待機。Go! Go! Go!」
12.7x99mm NATO弾は機関銃にも使用されている弾丸で、高威力を誇る。
それをスナイパーライフルで射出すれば、高威力かつ高精密な兵器と化す。
有効射程は2000mだが、実戦で2km先の標的に当たったことはない。
凄腕のプロが一度だけ1.5km離れた敵に命中させたことがあるだけである。
スコープを覗くと、短時間でかなり距離が縮まった敵の姿が確認できた。
蛙のような体、例によって腕が長く、ブラリと下ろしているのが不気味だ。
青の祓魔師に出てきた蝦蟇みたいな感じだった。
気の遠くなるほどの時間だった。
数分に満たないわずかな時間が、永遠にも匹敵するほどの長さに感じられ、幾度も諦めが脳裏をよぎった。
1500mまで近づいたところで、指に力を込め、1000mを切った瞬間、
ド、と腹の底を打ち鳴らすかのごとく轟音がして、自分が引き金を引いたのだと気づいた。
それを合図だと勘違いした四人が一斉に発砲する。
すさまじい音、まだ合図ではないと叫んでも、ただちにかき消されてしまうほどの大音量が工場内に轟いた。
手を休めている暇はない。
一発、二発と撃つも、やはり当たらない。
照準の真ん中を飛ぶ敵に変化はなく、むしろ音を聞きつけてスピードが上がったようにさえ見える。
時速にして300kmほど。最新の戦闘ヘリ並の速度だ。
300mまで近づいたとき、ようやく僕の放った12.7x99mm NATO弾が敵の腕に命中した。
片腕が引きちぎれ、鮮血が地面に散布される。
錆びた鉄と鉄をこすりあわせたような悲鳴の音が、拡声器を通して増幅させたようなノイズ混じりで響く。
十分の一くらいのスピードに減速した敵は、その場でホバリングして向きを変えようと身を捩った。
「逃がすな! 撃て! 撃て! 撃て!」
戦意をなくした敵に集中砲火を浴びせかける。
ばらまかれた5.56x45mm NATO弾が一直線になぞるようにして背中にヒットして、敵は再度悲鳴を上げる。
マミの放った弾丸は眼球をかすめ、もはや蜂の巣状態になった敵はホバリングすることも叶わず
翅をもつれさせながら地面に落下していった。
その間も射撃は続けられたが、真っ直ぐこちらに向かってくるときや止まっている状態ならいざしらず、動いている標的に当てる技術に欠けている僕らでは、追撃できなかった。