表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
166/230

暗殺あるある早く言いたい

特殊部隊はスーパーマンではない。

隠れている敵を探して捕獲するなんてことはできない。

特殊部隊が派遣される状況下ではたいてい相手の素性が割れていて、どこに何人で潜んでいるかを把握している。

特殊な条件下で作戦を遂行する、だから特殊部隊と呼ぶのだ。


その点で僕たちは分が悪い。

自衛隊員の実力は不明だけれど、こちらの人数、住んでいる場所は特区の誰に聞いても知っているからだ。

一方で僕たちが握っている情報は、彼らの中に自衛隊員が紛れ込んでいるかもしれないということのみ。

これでは勝負にならない。


二日後、目を醒ました田中がマンションに戻った。

真っ青な顔で、目の下には濃い隈がある。

大丈夫なのかと尋ねると、もう平気だという。

面倒を見てくれていた狩人ハンターも、あとは自宅で療養していれば回復すると言っていた。


「回復おめでとうと言いたいが、今はそれどころじゃない。イワンから話は聞いているな」

「すまねェ。まさか毒を盛られるとはよお」

「よく戻った。しっかり休んで体力をつけておいてくれ」


これ以上家にこもってじっとしているわけにはいかない。

敵のやり方は分かった。

それならばこちらも相応の対処をする。

怒らせると怖いと分からせる必要がある。


誰を相手にしたのか。

もはや平和とは言えない状況下で、うまく立ち回るのはどちらなのか。

特区の慣習を逆手に取れば、敵の出鼻をくじけるというわけだ。


「時間です。既に広場には難民632名が揃っています」

「すぐに行く」


希美とボディーガードを連れて、僕は広場に向かった。

広場は旧公園だ。

防衛拠点にも住居にも向かないため、普段は使用されていない。

今日のように大人数を集めて何かをするときにだけ使う。


イワンを含む狙撃手6人が遠くから援護している。

僕は壇上に立って、集まった人々を見下ろしていた。

なるほど、人の上に立つというのは普通なら気持ちのいいものなのかもしれない。

この中の誰かが自分の命を狙っているという条件付きでなければの話だが。


「よくぞ来てくれました。ここのルールは皆さんに書類で配ったとおりです。書類なんて久々でしょう。立川特区には安全があります、秩序があります、ルールがあります。その中のひとつがこれ(僕は100円硬貨をかかげる)、お金です。皆さんに渡したお金は、特区内で使用するものです。少ないと思われるでしょうが、平時の価値基準では一ヶ月分の給料に匹敵する金額を最初に渡しておきました。無駄遣いはしないでください、渡すのは最初の一度きり、あとは自分たちで職に就いて稼いでもらいます」


一様に顔を上げて、大人しく耳を傾けている人々。

怪しいそぶりをしている者はいない。

衆人環視の元で事を荒立てるつもりはないらしい。


「いいことを教えておきましょう。今朝、私の家にこんなカードが届けられました。“目には目を”と書かれています。差出人は陸上自衛隊、みなさんのお友達です。彼らについての情報をくれた人には、向こう三ヶ月分のお金を差し上げます。酒も飲める、タバコも買える、美容室にも行き放題。情報お待ちしています」


壇を降りると、希美に詰め寄られた。

彼女は冷静を装いながらも、語気を強めて言った。


「何を考えているんですか」

「相手のやり方に合わせたのさ。目には目を、だ」


そのとき、集まった大勢の難民の中から髭面の男が走ってきた。

手にバタフライナイフを握っている。

距離は10mある。


ボディーガードの二人が9mm拳銃を抜いて構えようとした。

どこからか飛んできた弾が、一人の頭を撃ち抜く。

走る男の勢いは止まらない。


僕が身をかがめると同時に、銃弾が頬をかすめた。

一発目で仕留めなかったのは、射線にボディーガードが立っていたからか。

考える暇もなく、ナイフを振り上げる男の前に、希美が両腕を広げた立ちはだかった。


「伏せろ!」

僕は叫んだ。


.338ラプアマグナム弾が男の顔面に命中ヒットした。

見るも無残に吹き飛んだ脳漿のうしょうが地面に到達する前に、銃声がもう一回。

僕は希美とボディーガードを連れてその場から離れた。



楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽



「あの威力は阿澄だろう」

「早くマンションに戻りましょう。ここは危険です」


「ああ、君は事務所に帰っていい。お疲れさん」

「帰っちゃダメですよ。ボディーガードなんですから」

「いや、いいんだ。すぐそこまで護衛が来てる」


僕が指差した路地から、阿澄と鈴木が出てきた。

それぞれL115A3とM110を手にしている。


「二発目は誰が撃った!」

僕は遠くから声をかけた。


「俺じゃない、一発目は阿澄だよ」

「助かった、ありがとう」

「お安いご用よ」


二発目の銃声は、おそらくボディーガードを撃った犯人に発砲した音だ。

無線機で犯人を仕留めたか聞こうとした矢先、イワンから連絡が入った。

内容は、犯人を捉えたからマンションに来てくれというものだった。


一階の部屋に、犯人が椅子に縛れられいた。

それをイワン、ユキ、中島が囲んでいる。

ユキが犯人に注射を打っているところだった。


「殺すなよ」

僕は言った。


「心配しないで、鎮痛剤を打っただけ」

「渋川さん、まさかあなたが犯人だったとは」


行方をくらましていた渋川が、のこのこ暗殺しに現れた。

同僚を殺害したばかりの彼は、肩を撃たれて大量に出血しているにもかかわらず、下衆げすな笑みを浮かべていた。


「俺は何も喋らねえからな……どのみちもうじき死ぬんだ」

「死ぬ前に喋ってもらわなきゃ困る。自衛隊の差金さしがねか?」


渋川はだんまりだ。

仕方なく銃口を傷に突きつける。

悲鳴が耳に刺さる。

この程度で顔を背ける人間は、この部屋にはいない。


「誰に雇われた、自衛隊か?」

「知らんな……」


9x39mm弾のストッピングパワーにより肩の肉が抉られて出血しているが、動脈は傷ついていない。

こんな芸当ができるのはイワンだけだ。

放っておけば出血多量で死に至る。

ただしすぐには死なない。

こちらのさじ加減でいくらでも調節できる。


「ネタを吐くまで殺すなよ」

「お安いご用よ」

ユキが言った。


なんでもかんでも「お安いご用」な女性陣は頼もしい限りである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ