配置を決める大事なお仕事
「どうするのよ、生存者探し。このままだと見つけた端から撃ち殺していかなくちゃならないわよ。どこかで折り合いをつけるとか、相手の言い分を聞いてから考えるかしないと、時間の無駄だわ」
「犯罪を見過ごして手を組めってのかよ」
「違うわ。前回も今回も、被害者の女性たちが受けた苦痛は見過ごせない。でも、東京中の可哀想な女の子たちを救っていくことが目的だったの? 私だって救えるものなら全員を救ってあげたい。だけど無理なの。キャパシティには限界があるし、最低限自分の身は自分で守ってもらわないと」
「君にそれを言われるとは思わなかったな」
「本当は言いたくない。けど……」
「わかってる。方法を考えてみるよ」
僕とマミは話し合っていた。
これで拉致されていた女性は全部で4人。
人間が4人増えれば、それだけ食料と水がいる。
平時なら、人間一人あたりが使う水の量は平均して220リットルと言われている。
僕たちは節約しているし、今は非常時なのでそれほど大量の水は消費しないが、4人増えるだけでもかなり消費量が増える。
本来であれば、生存者には自給自足に近い生活を送ってもらうつもりだった。
協力して生きていく以上、食料生産に大人数で当たることはあるにせよ、普段の生活は各自で営んでもらって、必要がある時にだけ招集するというスタイルでいこうかと思っていた。
しかし実際に集まったメンバーは、集団どころか一人でさえ生きていけないような精神状態だ。
何度も言うようだが、彼女たちに罪はない。
ただ僕たちにとっては計算外だったというだけだ。
マミがイライラしている気持ちは痛いほどよく分かっていた。
幹夫が治ったばかりだというのに、被害者4人を中島班に押し付けた。
埋め合わせというか、手が離せない中島班の分の雑用を工場のメンバーで行っていた。
疲労が溜まり、なぜ自分がこんなことをしなければならないのか、という疑問が首をもたげる。
イライラしてつい人に八つ当たりをしてしまう。
さしあたって、カズヤ班に協力を仰ぐことにした。
彼らももう単独行動できる実力者に育っている。
僕はすぐさま田中に命じ、車を出させた。
楽楽楽楽楽楽楽楽
カズヤ班は射撃演習の最中だったらしく、ビルの下に集まっていた。
皆一様に89式5.56mm小銃を肩にかけているので、遠くから見ると自衛隊にしか見えない。
「調子はどうだ」
「平和なもんですよ。手長足長もたまにしか現れないし」
トモヤが答えた。
「何か用ですか?」
梓が言った。
「ちょっと相談があって来たんだ。上で話せるか?」
「全員ですか?」
「ああ、できれば全員に話しておきたい」
カズヤ班の拠点づくりには、僕も立ち会っていた。
だだっ広いフロアは、風呂の一郭を除き仕切りが外されている。
殺風景では気分が落ち込むという梓の意見で、窓には色々なポスターが貼り付けてある。
他には、ソファ、布団、棚、弾薬箱などが置かれている。
工場の物置よりは断然整理整頓されていて、どこに何があるかひと目で把握できるようになっている。
三人がけのソファが四つ、テーブルを囲んで置いてある。
そのうちのひとつに腰掛けると、田中が横に座った。
正面にカズヤ、トモヤが座り、右手にマリナ、梓が、左手に右雄が座った。
「単刀直入に言って、工場の作業をみんなに手伝ってもらいたい」
「それは構いませんよ。やっぱり例の女性たちが増えた分ですか?」
マリナが言った。
「お察しの通り」
「俺たちだけでなんとかなると思ったんだけよお、きついわ」
「こっちには無線機の情報しか入ってこないんですけど、最初の三人のうち二人は結構回復してるんですよね?」
梓が言う。
確かに、理沙と希美の二人は雪菜と比べて回復が早かった。
希美は未だに自分の身に起こったことを他人事だと認識しているけれど、生活していく分には問題ない。
だが三人で共同生活は無理だ。
互いの顔を見るとフラッシュバックして、パニックを起こす。
「だったら三班に分けたらどうです? リハビリと訓練にもなるだろうし」
「みんなはそれでいいのか?」
全員、首を縦に振った。
「ごめんな。尻拭いをさせるみたいで」
「そんなこと言わないでください! 困ったときはお互い様だっていつも言ってたじゃないですか」
「そうだな、ごめん」
カズヤ班には理沙が加わることに決まり、移送の計画を立ててから、僕と田中は工場に帰った。
中島班には無線で一報入れておいた。
重体の雪菜はひとまず中島班に残ってもらうとして、工場には希美が加わる。
中国人に捉えられていた少女に関しては、あのとき「はい」と一言喋ったきり口を開かず、失語症ではないかというイワンの見立てを信じ、そっとしておくことにしていた。
今は中島班にいるが、理沙と希美を移送する際に、本人にどうしたいか尋ねるつもりだ。