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渡る世間は鬼ばかり

豪邸のカーテンに燃え移った火があっという間に燃え広がり、屋敷を炎が包んだ。

僕は盗まれた銃を取り返し(おそらく中国製であるUziには手を付けなかった)ガレージに走った。

飛び散った瓦礫がガレージにまで到達していた。


キーを探しだしたユキが車に乗り込んだ。

早くしないとガレージにまで炎が広がってくる。

救出した人質をユキに任せて、田中を呼びに行った。

大声で呼びかけ、道で彼を待っていた僕(護衛のため)は、出てきた彼と一緒に車に入った。


「車を吹き飛ばすくらいの爆薬って言ったろ。家まで吹き飛ぶところだったぞ」

玄関に倒れていたふたりは田中が撃ったのだが、体には玄関の破片も突き刺さっていた。


「七輪があったから、車の中で燃やしてみたの。ガス爆発にしたら威力が増すと思って」

「増すなんてもんじゃなかった。今度からそういうことは事前に言ってくれ」

「はいはい分かったわよ。早く出しなさい!」


もたもたしている田中に苛立って、ユキが座席を蹴った。

ハンヴィーは急発進して、豪邸から離れた。


「ハンヴィーから工場へ。連絡が遅くなってすまない。トラブルがあって対処していた。もう大丈夫だ、これから工場に戻る。三人とも無事だ」


工場に近づいたとき、ハンヴィーに置いてあった無線機で連絡をいれた。


「工場、了解。帰ったらちゃんと説明して」

恐ろしいマミの声が返答をくれた。


どう説明したものか。

後ろの席に目をやると、ユキの横にうずくまった人質の少女がいる。

「ユキ、手錠を外してやってくれ。それから猿轡も」


拘束を解かれても、少女は先ほどと変わらない姿勢、表情でうずくまり、震えていた。

もしかして日本人ではないのだろうかという疑問が浮かんだ。


「ええと、君は日本人かな? 言葉分かりますか?」

「はい」

少女は短く言った。


日本人でよかったというわけではないが、言葉が通じるのなら安心だ。

詳しい事情がわかれば、武装した中国人の素性も調べられる。



楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽



ハンヴィーが停車し、降りて敷地に立つと、駆け寄ってきたマミに睨まれた。

すべて説明し終わるまで工場の中には入れませんよ、と言っている目だ。

僕は無言で後部座席を指さし、そこから出てきた人質の少女を見せた。


「どこで見つけたの」

「前に言った爆心地のあたり」

「あのへんを捜索したときには生存者はいなかったって言ってたじゃない」


「それがいたんだよ。驚きだ。車を盗まれたから取り返した。そのついでに、彼女を発見した」

「まさか島田のときと同じ?」

「彼女を助けてやってくれ」


歩こうとした少女はよろけて、転びそうになった。

それをマミが受け止めて、肩を貸す形になって工場に歩いて行った。

僕はハンヴィーに積んであった銃を全部持ちだして、物置にしまった。


今回のミスは車、銃の管理を徹底していなかったがために起きた。

盗っ人が油断していたからいいものの、ハンヴィーを諦めて工場に戻り、後日イワンの助けを借りて全面衝突になっていた可能性もある。


今はあまり事を荒立てたくはない。

人質を救出するのではなく、生存者を探したいというのが本音だ。

マミや皆には言えないが、ユキの言うとおり、この世界で生きていくには多少の暴力行為も厭わないというタフな人間でなければならない。


自分の身は自分で守れて、そのうえ他人の命を預けられるような奴。

僕が探しているのはそんなタフガイだ。

あるいはタフウーマン。


「おつかれさん」

マミから事情を聞いてやってきたらしい鈴木が言った。

僕はまだひとりで敷地に残って、汚れたハンヴィーを掃除していた。


「ユキは泊まっていくとさ。上で飯食ってる」

「誰のせいでこんなことになってると思ってるんだ」

「中国人がいたんだって?」


「サブマシンガンが置いてあったのを見た。あいつらがどこから来たのか、つきとめなくちゃ」

「あの子に聞いてか」

「様子はどうだった?」

「前とおんなじだ。暴れだしそうになったから経口鎮静剤を与えた。今は眠ってるよ」


やれやれだ。

疲れていたのでそのまま寝ようかとも思ったが、体に煙の臭いがついていたのが気になって、風呂にはいることにした。

本格的な捜索を始めれば、これ以上の事態に巻き込まれることもあるだろう。


『“こんなこと”をしない性格の人は、とっくにくたばってるのよ』とユキは言った。

そんなこと言ったってしょうがないじゃないか!

僕たちも島田や今日の中国人のような連中と同類なのだろうか?

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