輻射強制/陽動作戦
監視中に確認できた敵の数は6人。
リビングと思われる部屋に3人、廊下に1人、玄関に2人だ。
人質の姿は確認できなかった。
いないのかもしれないし、どこかに縛られているのかもしれない。
太陽が沈み、街は闇に包まれた。
ベツレヘムの星も、今では僅かに光っているに過ぎない。
闇にまぎれて作戦を展開するには絶好の機会ということだ。
「家の中を見たけどダメね、使えそうなものは何もない」
見回りを終えたユキが戻ってきて言う。
豪邸の窓に明かりが灯った。
ロウソクではなく懐中電灯のような光源だ。
油断しているのか、それとも考え無しなのか、自分たちの存在を知らせているようなものだ。
加えて庭に警備の姿はなく、上階の窓にも盗っ人の見張りはいない。
だが中にいる敵が銃を持っていることは確実だ。
こちらも油断はできない。
「陽動作戦でいこう。車を柵に突っ込ませて、盗っ人の目を欺く。撃ってくるだろうから、タイミングを見計らって爆発させる」
「車に近づいてくるかしら?」
「近づかせる必要はない。僕たちが死んだと見せかけられればいいんだ。安心した敵は一瞬油断する」
「そこで突撃するってわけね。でもどこから?」
「どこでもいい。正面に気を取られているあいだに、それ以外の場所から中に入る」
田中が車を調達に行った。
僕とユキは監視を続行し、敵が作戦に気づかないよう見張った。
「突撃は僕一人で行く。Vepr-12を貸してくれ」
「嫌よ、私も行きたい」
「気持ちはわかるが、狙撃銃を担いで突撃は無謀だ」
「拳銃があるわ。弾は満タン」
ユキはMP-443を腰から抜いて言った。
「分かった。じゃあ田中を連れ戻そう。車を動かすのは君、僕は裏口に先回りして爆発音が聞こえるまで待機してるから、車を動かしたらすぐに合流してくれ」
田中が帰ってくると、彼には僕のM110を握らせた。
玄関から燃える車の様子を見に出てきた者、窓に近づいた者は迷わず撃てと命じ、表へ出た。
「準備するから、先に行ってて。アディオス!」
ユキは警戒な足取りで車まで走っていた。
僕は豪邸の隣にある家の敷地を経由して、豪邸の裏に出た。
もちろん裏手にも柵があったが、越えられない高さではない。
これならゾンビでも楽に侵入できるだろう。
裏手にも見張りはいなかった。
不用心なことである。
あるいは銃を手に入れて安心しきっているのかもしれない。
だとしたらチャンスだ。
ついでに鍵がかかっていない窓を探した。
あるわけないと思って期待していなかったが、ひとつだけあった。
というかその窓は、鍵どころかガラス自体が無かった。
窓が外されていたのだ。
遠くから、車のエンジン音が聞こえた。
猛スピードを出しているのが分かる。
次の瞬間、鉄柵に当たる大きな音がした。
同時に家の中からは、何事かと騒ぐ声がする。
喋っている言葉の意味は、語感から察するしかなかった。
なぜなら彼らが喋っているのは日本語ではなかったからだ。
中国人だ。
銃声と爆発音がほぼ一緒に鳴り響く。
ものすごい爆発で、裏手にいる僕にまで空気の振動が伝わった。
もっと集中していたら、地面が揺れているかどうかも感じ取れただろう。
たぶん揺れていた。
間髪入れずに、ユキが鉄柵を身軽に飛び越えてくるのが見えた。
お早いお着きだ。
田中のM110が敵の一人を仕留めたらしく、銃声と撤退を叫ぶ声がする。
「急ごう!」
僕は窓からヌルッと中に入り、Vepr-12の銃口を前に向けながら奥を目指した。
正面での爆発、正面からの狙撃。
敵は正面を気にして、物陰に身を隠したり、バリケードを構築するのに一生懸命になっているはずだ。
それを後ろから叩けば、一件落着である。
案の定、リビングに入ると、敵はソファと冷蔵庫を倒してバリケードにし、正面の窓に釘付けになっていた。
近くにいるというのに、僕たちの姿には気づいていない。
AKMを窓の外に撃ちまくっていたからだ。
僕とユキは頷きあって、銃口を敵にあわせた。
散弾がひとりの行動部を撃ちぬく間に、ユキの拳銃がもうひとりの肺と心臓付近に二発撃ち込んだ。
三人目の敵が音に驚いて振り向く前に、Vepr-12が火を吹き男の顔面をバターのように抉った。
玄関の方面を顎で指して、ユキと共に向かう。
途中、階段から降りてくる一人をユキが問答無用で撃ち殺した。
田中に撃たれたらたまらないので、玄関から外には行かない。
遠巻きに確認すると、玄関付近に二人の敵が倒れていた。
これで6人。
更に二階にあがると、部屋の一つに僕たちのダネルが置いてあった。
それだけではなく、見覚えのない銃まである。
部屋を素通りして別の部屋へ。
やはりと言うべきか、そこには人質が拘束されていた。
人数は一人。
爆発に驚いて暴れたせいか、手を切って血が出ている。
口には猿轡を噛まされていた。
「ユキ、撤退だ。キーを探せ。僕はこいつを連れて裏口から出る」
「アイアイサー」