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美少女+心的外傷=?

一夜明けて、僕は被害者女性それぞれと面会することになった。

彼女たちは全員別の部屋にいて、休養をとっている。


互いの姿を見ると、フラッシュバックしてパニックを起こすのだろう。

別々の部屋に寝かされた三人は、話で聞いていたよりも落ち着いているように見えた。


僕は最初に、末神雪菜すえがみゆきなの部屋に入った。

雪菜は錯乱して鈴木を突き飛ばした人だ。

事前に中島から渡された調書には、19歳と書いてあった。

精神が不安定で、監禁中の話は厳禁とも書いてある。


「ここ、座ってもいい?」

ベッドの横に置いてある椅子を指差して言った。

しかし雪菜は呆然としていて、何を尋ねられたのか分かっていないふうだった。

椅子をベッドから遠ざけて、僕は腰掛けた。


「外は大雨だ。まいったよ、傘を忘れてきちゃった」

この分では関東地方が梅雨入りしただろう。


「島田は死んだよ」

「そうですか」

ようやく口を開いてくれた。


「僕たちは君に危害を加えるつもりはない。回復するまでゆっくり休んでくれ。要求があれば、オカマ口調の奴に言うといい。もう会ったろう?」


彼女は頷いた。

よくよく見ると雪菜は美少女だった。

丸顔で目が大きく、目尻が下がっている。

タヌキ顔の美少女だ。


「じゃあ僕は行くから、用があったら呼んでくれ。マッハで駆けつける」

僕は部屋を出た。


「どうだった?」

廊下で中島に尋ねられた。


「なんとも言えんな。心ここにあらずって感じだ。瞳もどよんとしていて、ああ、髪が伸び放題だったな、誰か切ってやれ」

「それはもう手配済みよ」


「室内に紐類はないな? 可哀想だがしばらくはヘアゴムも無しだ」

「ぬかりはないわ」

「よし、次だ」


次に僕が入ったのは、秋山理沙あきやまりさ21歳の部屋だ。

彼女は暴れはしなかったが、工場では雪菜と同様パニックを起こしている。


「中島から話は聞いてるね。僕は工場班のリーダーだ」

この部屋には椅子がなかったので、僕は立ったまま言った。

理沙は少し顔を上げて僕を見たが、すぐにうつむいてしまった。


雪菜にも言ったことを一通り繰り返し、僕は部屋を出ようとした。

「島田は、あいつはどうなったんですか?」

理沙が言った。


「死んだよ」


最後に、一番状態が悪いという及川希美おいかわのぞみの部屋に入った。

彼女はまだ15歳だった。


「具合はどう?」

僕は椅子に腰掛けながら言った。


「なんでそんなに離れてるの? もっとこっちに来なよ」

「僕は女の子に免疫がなくてね。これ以上は近づけないんだよ」


「私、どこも悪くないのに、なんでここにいなくちゃいけないの?」

「ごめんね、もう少しだけいてくれるかな。用があったら好きに命令していいから」

「本当? じゃあ、いてあげる。お兄さん何歳?」

「22歳だよ」


「へーっ、見えない」

「いくつに見える?」

「50歳」

「手厳しいな」


希美が深刻だというのはすぐに分かった。

彼女は明るい語調とは裏腹に、人と目を合わせない。

それは前の二人も似たようなものだったが、希美の場合は語調と合わさって余計不自然になっている。

島田と会話する際に身につけた術だろう。


彼女は窓の外から目を離さずに、僕と話していた。

調書には、希美の腕には複数の自傷痕があると書いてあった。

今は包帯がグルグル巻きになっている。


「言っておきたいことがある。島田は死んだ。もう君の前に現れることはない」

「島田さんが? それは、可哀想にね……」

希美は明るく笑った。



楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽



三人の部屋を見て回ったところで、中島から温かいおしぼりを渡された。

僕はそれで顔を拭って、ドアの前から離れた後、大きくため息をついた。


「心臓に悪いぜ」

「アタシもなんとかしてあげたいとは思ってるんだけど、お手上げよ」

「無理もない」


雨は依然として降りしきっていた。

田中は眞鍋や橋部とともに用事に出掛けている。

戻ってくるまでここにいるしかない。


情けない話だが、僕は一刻も早くこの場を離れたかった。

あの三人の陰鬱さにあてられたのかもしれない。

つらいのは本人たちだが、そのつらさは周囲にも影響をあたえるのだ。


「ついでに幹夫も見舞っていこう」

「殿ならいつもの部屋にいるわ」

「お前、幹夫のこと殿って呼んでるのか」

「アラ、変? だってあの人、殿って感じじゃない?」


殿って感じがどんな感じなのかは分からないが、僕は幹夫の部屋に向かった。

彼は現在リハビリ中。

怪我もだいぶ回復して、もともとの体力が馬並みだったからか、メキメキと治っていった。


ノックをして部屋にはいると、幹夫はアームカールを上下しているところだった。

10kgを両手に持って20kg。

幹夫の筋トレの成果もあって、僕も10kgくらいなら楽に持てるようになった。

しかし、彼はリハビリ中なのだ。

10kgはちょっと重すぎるのではないか。


「そんなの持ってて大丈夫なのか?」

「なあに、これくらい、楽勝よ……」


ぜんぜん楽勝には見えなかった。

約1年寝たきりだったのだ。

体力や筋力が落ちているのは当然だ。


「ここに監禁事件の被害者が運び込まれたことは知ってるな?」

「ああ、聞いた、大変だった、らしいな……」

会話中でも筋トレをやめない。


「回復したらまた筋トレ指導頼む。二度と監禁されないよう南京錠を叩き壊せる腕力に育ててくれ」

「合点承知の助……」

「また来るからな。それ、あんまり力みすぎんなよ」

「お茶の子さいさい……」


だめだこりゃ、と思って僕は廊下に出た。

暗く、長い廊下には所々ロウソクが立てられている。

もうそろそろ、騒動から1年が経過する。

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