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玉に弾ぶち込むタイプの女

捜索初日、多摩美大周辺に狙いを定めて、付近をハンヴィーで走っていた。

左右にマンションが立ち並ぶ道をゆっくり走らせて、音を聞きつけた生存者がひょっこり現れないかと辺りを見回してみても、廃墟となった建物からは物音一つしない。


「前回もこんな感じだったのか?」

僕は尋ねた。


「そう聞いてる。ああ、このへんに良い飲み屋があるんだよなあ」

前回の捜索には参加していないという橋部が言った。


「飲み屋も瓦礫だな。廃墟ばっかりだ。ここらの家全部素人が設計したのか?」


運転しているのは右雄、助手席には真純が座っている。

皆、明らかに退屈していた。

いるとも分からない生存者捜索を、かれこれ4時間もやっているのだ。

そのうえ多くの建物は、地震の影響で倒壊している。


しかし前回の捜索では、中島班の者3人が(中島、眞鍋、聡志)一週間ぶっ通しで任に当たっている。

退屈しているからと投げ出しては、彼らに申し訳が立たない。


「集中しろよ。鼠一匹見逃すな」

僕は注意した。


「キャッ! なにあれ、きもい」

真純が小さく悲鳴をあげた。

彼女が見ている方向に目を移すと、いつかのアルビノ個体とそっくりの白い翅形ゾンビがいた。


前に見たときと同じように、飛ばずに徒歩で移動している。

アルビノ個体は飛行が苦手なのだろうか?

白いゾンビを見るのが初めての3人は、食い入るようにアルビノ個体を見つめている。


僕は構わずに銃座に出て、12.7x99mm NATO弾をお見舞いする。

翅がもげて、ふりかけのように舞った。

四肢が吹き飛び、血しぶきとともに断末魔が響く。


「容赦無えなあ」

橋部が言った。


「容赦してどうする。右雄、移動だ」

「アイアイサー」


銃声の音量はざっと160デシベル。

ジェット機の近くに突っ立っているよりも大きな音がする。

最低でも200m圏内にいる生存者は騒音に気がつくはずだ。


「耳栓してもうるせえな」

橋部が愚痴をこぼす。


「我慢しろ」


一日かけて一帯を捜索するも、収穫はなし。

最初からこんなものだろうと思っていたが、実際に収穫がないと心が折れそうになる。

中島班のマンションで橋部と真純をおろした後、工場で僕がおり、右雄は自分の車に乗り換えて、工場で待機していたカズヤと一緒に帰っていった。


原則として二人組以上で行動するという規則は、若干面倒くさい。


「どうだった?」

帰って来て早々に香菜から質問された。


「見ての通り収穫ゼロ。こっちにはいないのかもな」

「都心側を探してみれば?」

「後半はそうするつもりだ」


渋谷区連合の件もあるから、都心のほうが生存率が高いのだろう。

都心には騒動が起きた朝に出勤、登校、出掛けていた連中が多い。

もともと住んでいる人も含めて、要するに都心にいた人間は通常と比べて行動力がある、もしくは購読力があった結果、都心に住めるようになった人々だ。


21世紀、経済戦争の中で上位にいた人間が、簡単にくたばるわけがない。

彼らはしぶとい。


しかし僕には都心に行きたくない理由があった。

一番は拉致された記憶がまだ新しいこと。

次に入り組んだ道では車が動かしづらく、隠れているゾンビを見逃しやすいこと。


都心では郊外と違った方法で捜索しなくてはならない。

面倒くさがりの僕はついつい後回しにしてしまうのだが、ここは香菜の言う通り覚悟を決めて、捜索網を広げて都心で大々的なアピールをする必要がある。


リスクを犯さなければリターンは得られない。

拡声器を使って都内を縦横無尽に走り回り、集合地点を伝える。


集合地点にたどり着くまでは自己責任だ。

来られない人間は、無理やり連れて帰ったとしても戦力にはならない。

自力でたどり着ける人間は、見込みアリというわけだ。


「選民主義は好きじゃないんだがな」

「つべこべ言わない! タイムリミットが迫ってるって言ったのは後白河さんでしょ」

「ああ、そうだな」


「それと明日の捜索、私も連れてって」

急な申し出だった。


「いくらなんでも早すぎる。基礎体力すら訓練不足じゃないか」

「そんなことは承知の上です。スーパーに行ったとき思ったの。実戦が一番だって。どうせいつ死ぬか分からないんだから、せめてみんなの役に立ってから死にたいの」


「香菜ちゃんは死なないさ」

「もう決めたから。連絡よろしく!」


あれはきっと男子を泣かせていたタイプだな、と僕は思った。

そして中学生になった時に男子には力で勝てないことを悟り、家で密かにショックを受けて、翌日からは作ったような女言葉を喋るようなタイプだ。


だが今は小学校もなければ、いじめっ子の男子もいない。


「あれはきっと玉に弾ぶち込むタイプの女になるぞ……」

僕はひとり呟いた。

そして、背筋が寒くなった。

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