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現場監督はジュースを奢ってくれる

出産後の母体が回復するまでの期間には個人差がある。

マミと阿澄はあと1ヶ月はイワン邸に滞在する予定だ。

1ヶ月だと?


だが文句は言えない。

自宅出産が成功したこと自体奇跡のようなもの。

出産が無事に済んだことが奇跡のようなものなのだ。


だってそうだろう?

いつ尽きるかもしれないガソリンより、新生児の命のほうが大事だ。

阿澄など今から赤ちゃん用のマフラーを編んでいるという。

編み物をしているところなど見たことがない彼女が編み終わるのがいつになるのか、誰にも分からない。


ところで僕はこの頃少しまじめに過ぎたと思う。

人生はもっと楽観に満ち溢れているべきだ。

ゾンビを撃って気晴らしをしてもいいが、撃っても撃っても数が減らないゾンビを相手にするのは不毛というもので、やるだけ時間の無駄である。


だからマミたちがいない分、中島班やカズヤ班に手伝わせることにして、都内の捜索を行うことにした。

サバイバーたちを集めて復興にあたるためである。

それにはまず中島とカズヤを呼び出し、計画を練る必要があった。

彼らに連絡し、次の日一堂に会した。


集団の構成人数が増えて困るのは、どうやって統率をとるかである。

指揮系統を複雑化すれば、齟齬そごが大きくなりやがては軋轢を生む。

そうなれば危険が増し、現在はそれほど脅威とは言えない敵に対しても、対応を苦慮するはめになる。


現在のバランスを保ちつつ、戦力を増強できないものか。

僕たちは相談した。


「拠点を増やすのは、ひとまず置いておくべきね。訓練もしなくちゃいけないし、最初から銃を持たせて自力で頑張ってじゃあ、わざわざ協力する必要がないもの」

中島が言う。


「渋谷区連合、俺がいた頃の連合では、結構はっきりした階級が決められていました。その結果はもうしている通り、ああいう具合です」


「中島んところと、カズヤのところの空き部屋を使って、各拠点の人員を増強するのが先決か」

「それがいいですね。五人だと何かと不便ですし」

「アタシもその案に賛成。でもこの話、生存者が見つかってからでもよくない?」


「そうでもないさ。見つかってから対処するのでは遅すぎる。のんびりやっていたんじゃ示しもつかないだろう。恐怖政治は嫌いだが、大人数を相手にする以上、ある程度は毅然としていなければいかん。中島はもう少し堂々と、カズヤは成人に負けない度胸が必要だな。武器の管理も徹底してくれ。どんな奴が加わるか分からないから」


「現状、武器は最低限しかないわ」


「ああ、そうだ忘れてた。イワンからの報酬で新しい武器が色々と手に入った。きっちり三等分するわけにはいかないが、今日、好きなのを見繕って持ってってくれ」


「そういうことは早く言いなさいな」

「え? 新しい武器くれるんスか? やったぁ!」


「ほいじゃこれを人数分」

中島が手にとったのはKBP A-91だった。


「俺はこれにしようかな」

カズヤはAKS-74Uを選んだ。

前回の強襲作戦で使用し、皆からの評判も良かった銃だ。


「ユキちゃんの子供、名前なんていうの?」

装備を物色している時に、中島が言った。


「アンナだそうだ。女の子だよ」


「アンナちゃんかあ。早く会いたいわぁ」

「めでたいっすよね」


「今まで以上に気合入れろよ。赤ちゃんの分もな」

「アイアイサー」



楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽



僕たちの話し合いは、方法を決めるだけであって、やることの是非を問うわけではないので比較的すぐに決まってしまう。

今回の捜索では、各班から選別した4人が割り当てられることになった。


現在工場の人員は不足しているから、主にカズヤ、中島班のメンバーが捜索にあたる。

工場からまったく人を出さないというわけにはいかないので、間隔をおいて一人が参加する。

鈴木が行き、次の日は休みで、田中が行きという具合だ。

当然、香菜は免除される。


様子見として、明日からの一週間、立川周辺の街を捜索する。

まだ足を踏み入れたことがない地も多くある。

油断は禁物だ。


僕はこの捜索作戦に、掃除と名付けた。

いよいよ本格的に都内の掃除を始める。

これまでにない大規模な作戦となる。

使用される銃弾はおそらく数万発。


擲弾やドローンを駆使し、人命救助に当たる。

平行して基地拡張を行い、太陽光発電、風力発電施設を充実させ、灌漑かんがいシステムを充実させ、田畑を開墾し、RC材を鉄筋と針金で補強しながら固めたものを積んで、土嚢どのうよりも強固な防御壁バリケードを構築する。


ガソリンが使えなくなる日がタイムリミットである。

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