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敵を殲滅する1つの方法

機は熟した。

クーガー装甲車、ハンヴィーに13人が分乗して渋谷区に着くと、まずは音を立てないようPP-19 Bizonでビル二棟を占拠し、スナイパーを配置した。


阿澄、田中ペアと、マミ、聡志ペアである。

放送センタービルを囲んで、梓、トモヤ、カズヤがOTs-03 SVUで監視している。

配置には時間がかかった。


一度護衛つきで現場まで行き、ポイントに送り届けたあと護衛が装甲車に戻ってという作業を繰り返したからだ。

夜のうちに事を済ませておいたので、あとは日の出を待つだけだ。

渋谷駅周辺は静まり返っている。


春、夜間はまだ肌寒い。

今回は堂々の正面戦争なので、「ニッカポッカ連合」の文字を描いたハンヴィーで突撃する。


「まさか鈴木くんが居残りとはねえ。てっきりマミちゃんがお留守番かと思ってたワ」

小さな光で照らされた車内で待機しているとき、中島が言った。

「じゃんけんで負けたんだよ」


前衛として作戦に参加するのは、僕、中島、右雄、橋部、真純、北村さんの六人だ。

北村さんは老体に鞭打ってまで出張ってくれている。


「ちゃんと訓練してきたんだろうな、中島?」

「あたりきしゃかりきヨォ! 虫一匹撃ち漏らさないわ。なんたって我らが隊長の借りを返す作戦ですもの。イワン様から直々にアドバイスも受けてるし」


「みんなAKS-74Uの扱いには慣れた?」

「骨董品にしてはなかなか良い銃ですな」

北村さんが言う。


「ハンドガードがおしゃれよね」

真純は呑気だ。


「頭に血がのぼってダーッと撃つと、ハンドガードが熱くなって持てなくなるかもしれないから、撃つ時は冷静に、一発ずつ確実にやってくれ」

「アイアイサー」

皆の返事がそろう。


いざ出陣という時になって、小型無線機トランシーバーに連絡が入った。

誰かと思えばイワンからである。


「イワン? 今どこにいるんだ? 何の用だ」

「おお、良かった。まだ攻撃前だね。ユキが手伝いに行けって言うから応援に来たよ」

まるで野球を見に行くかのような感覚で言う。


「応援って何のことだ」

「作戦は知ってるよ。15分後に総攻撃だね。12分後に花火をあげるから、突撃の合図にしてね」


彼が何を言っているのか、12分後になって分かった。

中島班の120mm迫撃砲 RTをトラックで牽引してきたイワンが、放送センタービルに向けて擲弾を放った。

代々木公園には落ちないよう配慮したのか、擲弾はビルの側面に命中し、爆発音、コンクリートが吹き飛ぶ音、ガラスの割れる音が響いた。


「全員目出し帽をかぶれ! GO! GO!」


近くで待機していた僕たち前衛班はハンヴィーを飛ばす。


強襲作戦の目的は敵の出鼻をくじくことにある。

相手は何が起こっているのか状況を把握しなければならず、反撃の準備が遅れる。

どこから攻撃されたのか分からない場合は、もっと効果的だ。

人間もアリも、自軍が危ういとなれば散り散りになって逃げる。


既にOTs-03 SVUの発砲音が聞こえる。

ビルの中から人が逃げ出してきている。

正面にハンヴィーを乗り付けると、拉致されたときに使った経路を通って、ビル内部へと進んだ。


叫び声とともに、おそらくは警備と思われるヘルメットを被った数人が襲いかかってきた。

狭い曲がり角で待ち伏せされたのならいざしらず、長い廊下で鉢合わせ、アルミ材を持って馬鹿正直に走ってくる渋谷区連合員。


5.45x39mm弾、毒の弾ポイズンブレッドが命中し、立ち止まってうずくまる渋谷区連合員。

前進して銃床ストックで頭を殴りつけ気絶させる。


扉をひとつひとつ蹴破って、中を確認する。

人がいれば撃つ。

あるドアの先には、猿田が腰を抜かして座っていた。


「ハ、ハロー! ブエノス ディアス! ボンジュール! ヘルプミー!」

ありったけの外国語を駆使して命乞いをしている。


「ここはいい。上を目指せ」

僕は指示した。

5人は猿田の部屋の前を素通りして去っていく。


「猿田、久しぶりだな」

「あ、あなたは誰ですか?」

「僕だよ。いつかの自衛隊員だ」

「ああ、あああ!」


絶望に打ちひしがれた表情をして、猿田が震える。

自分たちの行いが生んだ結末だと悟ったのだろう。


「生きていたらまた会おう」

僕は猿田のふくらはぎを撃った。


絶叫を後ろに聞きながら、上を目指した5人を追って、僕も移動した。

ほとんどの渋谷区連合員は、最初の攻撃で混乱していて、戦意を失っているようだった。

中には反撃を試みる者もいるが、アルミ材とAKS-74Uでは、竹槍でB-29に挑むようなものだ。

問答無用で撃ち倒した。


「あいつら速いな。追いつけん」


上の階で発砲音がしている。

僕が歩く廊下や階段には、撃たれて死亡した連合員か、かろうじて息のある連合員しか残っていない。

負傷して戦意を失っている敵に、とどめを刺すような真似はしない。

生きるやつがいれば、死ぬやつもいる、それだけだ。


突如、後方から撃たれた。

僕は振り返った。

弾は運良く防弾チョッキに当たった。

貫通はしていないが衝撃はかなりのものだ。


振り向く瞬間、時間が何倍もの長さに拡張され、思考がめまぐるしく回転した。

訓練をした僕たちニッカポッカ連合兵士が誤射する確率は低い。

そうでなくてもメンバーは全員上にいる。


僕を撃ったのは誰だ。

敵に決まっている!


いくら訓練していても、恐怖は消えない。

なぜ僕の思考が無駄に回転したかというと、振り向きざま銃口が横を向いているときには既に、引き金を引いてしまっていたからだ。

誤射の元である。


相手の顔を確認せず、意志とは無関係に右手の指。

構えを低くして脇腹で銃床を挟むことによって、ようやく弾道が安定し、敵の胴体に計6発の5.45x39mm弾が命中、敵が倒れるのを目で見てからようやく、相手が連合上層部の“拳銃持ち”であることを理解した。


「あぶねえ……」

ため息のような声が漏れた。



楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽



直後、僕は上階から降りてきた5人と合流した。

欠員はない。

見たところ怪我人はゼロだ。


「上で戦闘になりましてね、2人仕留めましたよ」

北村さんが言った。


「噂の“拳銃持ち”よゥ」

中島が言う。


「僕もさっきそこで1人殺った。上にいたのは何人だ?」

「北村さんが撃った2人だけよ」


拳銃持ちは全部で五人いるはずだ。

まだどこかに潜伏していて、不意打ちされれば厄介だ。


「よし、下りながら探してみよう。一度装甲車に戻って、各員の状況を把握する。問題なければ回収して撤収だ」

「アイアイサー」


階段を下っていると、気が抜けてきたのか中島がこんなことを喋った。


「拳銃持ちが隠れてた部屋、なんか不気味だったわあ。儀式、っていうの? ガイコツとか御札とかがびっしり壁に置いてあったわ。あれはきっと降霊術か何かね。アタシTVで見たことあるわ」


「無駄口は後だ。集中しろ」

「あいとぅいまてん」

中島はですよ風に言った。



楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽



小型無線機トランシーバーから得た各員の状況報告。

阿澄は逃げようとした三台の車の運転手を射殺。

更に徒歩で逃亡を図る六人を仕留めた。


マミは音を聞きつけて渋谷駅から出てきたという手長足長五体を射殺。

手長足長と交戦していた“拳銃持ち”1人を倒した。


OTs-03 SVUで建物周囲を監視していた三人は、合わせて20人を射殺。

そのときに“拳銃持ち”らしき人物が闇雲に発砲しながら逃げていたが、仕留められなった。


報告を聞き、イワンに首尾を伝えると、撤退すべきだという指示を受けた。

深追いは危険だ。

音を聞きつけたゾンビが、一斉に渋谷駅一帯を目指して歩いているとの情報も得られた。


「作戦終了だ。これより帰還する」


前衛部隊の乗ったハンヴィーは、そのまま帰途につく。

阿澄、田中ペアのいるビルにクーガー装甲車が停まっているので、田中が残る人員を回収して、僕たちに遅れて出発する。


作戦終了から三十分後、もう13人全員西に向かって車で走っている頃、東方から爆発音が聞こえた。

あとになって知ったことだが、それはイワンが置き土産とばかりに発射した120mm擲弾の音だった。

彼は最後まで残って作戦を見届けていたのである。

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