着港/報酬/武器多数
横須賀基地に着港したのは、3月の後半だった。
長く、永遠にも感じられた旅も終わりが近い。
船を陸揚げし、コンテナの中身をトラックに移し替える。
7tトラックMTVRを二台拝借して、移動中落ちないよう固定したら出発だ。
「これ動かせるかな」
トラックを見た眞鍋は不安がっていた。
MTVRは7tトラックだが、載せようと思えば14tまで荷物が載る。
山積みになった物資を見て、心配になる気持ちはわかる。
「あともう一息で帰れるんだ。気張っていこうぜ!」
僕は眞鍋の肩を叩いた。
使用するルートは、以前イワンが通った道を使う。
あれから時間が経っているので状況は分からないが、未知のルートを通るよりは安全だ。
僕は眞鍋と一緒の車に乗り、マミと香菜はイワンと乗った。
イワンのトラックに続いて発進する。
あれだけ積もった雪も、3月も後半になればだいぶ溶けている。
ほとんど海の上だったのと、新潟を出てからはずっと北日本の沿岸部の状態しか見ていなかった僕たちは、横須賀や都内の状況がどうなっているか不安だった。
北日本では完全に雪に没して、存在そのものが無くなってしまったかのような町村もあった。
「溶けるもんだな、雪」
僕が言う。
「これならそれほど時間はかからなそうだ」
「安全運転で頼むよ」
二日後、僕たちは無事工場に帰還した。
楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽
二台のトラックは、まず工場で僕、マミ、香菜を下ろした。
眞鍋がイワンの車に乗り込み、中島のマンションで眞鍋を下ろし、イワンが帰りがけにユキを拾って、自分たちのマンションに戻る。
一台のトラックは、荷物と共に工場に残されている。
これをどうするのか?
いわば臨時ボーナスである!
最初からそのつもりだったというイワンは、トラックごと荷物をくれた。
ただしもう一台のほうはイワンとユキのものだ。
先にあったタイフーン-Kとその荷物も彼らのもの。
使用するには許可がいる。
許可無しで使える物資がトラック一台分10トン!
手伝ったのだから何かもらえるだろうと思っていたが、これは予想外の報酬だ。
「おう、おかえり!」
「おかえりなさい」
鈴木と阿澄の二人が出迎えてくれた。
彼らは腕を組んでいる。
僕とマミは顔を見合わせ、なんといっていいかわからない表情をした。
「あれ、この子は?」
鈴木が言った。
香菜がマミの裏に隠れていたのだ。
「新潟にいたのを助けたんだ。香菜ちゃん、自己紹介して」
「木崎香菜、12歳です」
「これはこれはご丁寧に。俺は鈴木、よろしくね。で、何やってるわけ?」
彼は僕を見て言った。
「聞いて驚くなよ。この荷物、全部僕たちのもんだ」
「マジかよ、すげえな!」
興奮冷めやらぬ僕は、トラックのヘッドライトをひたすら撫でていた。
苦労した甲斐があった、苦労してよかった!
さてここで荷物の全貌を把握しておきたいところだが、量が膨大すぎるのでやめておく。
必要になったときに随時何があるかを確かめる。
さながらドラえもんのようにだ。
ただし特に注目すべき品だけを明記しておく。
・XM8
・AKM
・AKS-74U
・AK12
・RPK-74M軽機関銃
・OTs-03 SVU狙撃銃
・CZ 75 P-07拳銃
・OSV-96対物ライフル
・Kord重機関銃
・Vepr-12 Molot散弾銃
・PP-19 Bizon
・PP-2000
・L115A3狙撃銃
・Manurhin MR73回転式拳銃
・GP-25グレネードランチャー
・GM-94グレネードランチャー
・RPG-22
この無国籍ぶり、歩く兵器庫ぶり。
まさしく武器商人的である。
「おい、これアメリカ製だぞ。イワンってマジで何者なんだよ」
鈴木が木箱から出したのはKRISS Vectorだった。
アメリカのサブマシンガンで、口径が大きいのが特徴だ。
「そうえば田中は? 見かけないけど」
僕は尋ねた。
「風邪ひいて寝込んでる。上にいるよ」
「大丈夫なのか」
「非番のくせに昨夜遅くまで起きて工作してたんだよ。田中の日本刀あるだろ。長いのじゃなくて短刀。それを銃剣みたいにしてくっつけて、ユキに見せびらかすんだって言って、ユキが眠ってから一人で1階に降りてやってたんだ。寒いし危ないからやめろって言っても聞かなくてな。そしたらこの通り風邪を引いたってわけだ」
なんとも田中らしいことである。
久々に顔を顔を見たかったが、起こしても悪いのでそっとしておこう。
「それにしても、デカくなったな!」
「デカく?」
僕は聞き返した。
「体だよ。やっぱ長距離歩くと人間変わるというか、顔つきからして逞しくなった」
「ちょっと鏡で確認してくる」
普段僕は鏡などあまり見ない。
顔を洗ったりするときでもバシャバシャやるだけで、わざわざ自分の顔を見つめる趣味はない。
しかし顔つきが変わったと言われれば気になる。
目をつむって恐る恐る大鏡の前に立って、ゆっくりまぶたを開く。
期待と興奮でニヤけている男の姿があった。
直後真顔になる。
なんだこれは、誰だこいつは。