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一本だたら

雪入道、一本だたらとも呼ばれる妖怪は、その名の通り雪が多く降る地方の伝説に登場する。

毛むくじゃらの体に、脚が一本。

大きな目玉が一つというなんとも中途半端な妖怪だが、害はない。


妖怪は幽霊ではないので、基本的には恨みを抱いていない。

たとえ害をなす妖怪がいたとしても、彼らは自分の仕事に忠実なだけで、やらなければならないからやっているだけに過ぎない。

社畜根性が据わっているという感じだ。


ところで工場から120m離れた地点に、一本だたらが跳ねている。

似ているからそう呼んでいるのであって、アレは食料を求めて街をさまよっているのだ。

要するに、アレに見つかれば食われる。

害もアリアリだ。


「一本脚で跳ねてるぞ。はじめUMAかと思った」

僕は言った。


今はまだ昼、怪物も冬季になると夜間の外出を控えるのだろうか。

あの体毛の濃さでは寒さは関係なさそうだが。


「見たことないタイプよね。ほんとにバリエーション豊富なんだから」

見物しながら阿澄が言った。


巨大な図体で跳ねているわりに、雪の上をすいすい進んでいく。

不可思議なのは、着地するときに積もった雪に埋もれないことだ。

足の裏が特別な形になっているに違いない。


凶悪そうな口。

頭の大きさと比べても人間を丸呑みできそうなくらいの大きさがある。


「あんなのにうろつかれてたら厄介だわね。おちおち外にも出られない」


「それなら撃ちますかねェ」

田中がバレットM82を持ち出してきた。

もっぱら対怪物用と化している狙撃銃だ。


彼は退屈に耐えられず、機会があればすぐにも撃ちたいと思っているから、行動が速い。

バラしてしまってあったライフルを組み立てて、一本だたらを狙う。

敵は狙われているとは知らず、キョロキョロして止まっている。

身近に餌になるものでもあったのだろうか。


「焦るなよ田中。この風だから撃っても当たらないよ」

今日は風が強い。

12.7x99mm NATO弾の弾道は横風の影響を受けにくいとはいえ、外せば位置がバレる。

なにせ直線上にいるのだから。


「俺の腕前を信じろよお」

言いながら彼は弾を込める。

駄目だ、たしなめても止められそうにない。


「阿澄、援護してやってくれるか。外したときに備えて」

「アイアイサー」


ズドンと脳天に響く射撃音が轟く。

耳をふさいでいてもこの音だ。

絶対に耳を悪くする。


外れた弾が着弾してすぐに逃げる敵もいるため、阿澄がほぼ同時に撃つ。

彼女はM110を使った。


両者とも命中ヒットさせた。

12.7x99mm NATO弾は胴体に馬鹿でかい穴を作り、7.62x51mm NATO弾は目に当たった。

一度に二箇所、致命的なダメージを負った一本だたらは悲鳴を上げる間もなく倒れる。


「おお、よく当たったな。ありゃ即死だ」

素直に感嘆の声が出た。


「シャープシューター田中と呼んでくれ。半径120m以内に死角なしだぜ!」

「私も当てたのを忘れないでよ」


阿澄も田中も凄い腕だ。

特に阿澄が凄い。


長距離射撃も難易度が高いが、同じくらい難しいのが近距離で動く目標に当てることだ。

長距離であれば、動く目標にはまず当たらないので、最初から狙わない。

凄腕のガンマンは、15m離れた距離にある数十センチの動く的に拳銃の全弾を命中させられる。


阿澄の場合は全弾は無理でも、10発中5発は当てられた。

これはイワンに次ぐ腕前だ。


「銃声がしたけど、何かあったのか?」

下でつららを落としていた鈴木とマミが戻ってきた。

鈴木に双眼鏡を手渡してやる。


「見てみろ、阿澄がこの風でアレを仕留めたんだ。眼球に一発」

「ほう、やるな」


「ちょっと、俺のことを無視しないでくれよお!」


「田中も撃ったが胴だった。阿澄は目」

「胴か。胴じゃあな」

「胴よりは目よね」


かじかんだ手をストーブに当ているマミが、確認もせず言う。

田中はふてくされて窖に戻った。


「嘘だよ田中、お前もよくやったよ」

可哀想になったので、外から声をかけた。

中からはブツブツと呟く声が聞こえてくる。


「次は当ててやる……次は当ててやる……」


今回も別に外してはいないのだが、相変わらずいじりがいのあるやつだ。


「どんな敵だったの?」

マミが尋ねた。


「一本だたらみたいな奴だった。初めて見るタイプ」

「様子見しなくてよかったの?」

「この環境だからな。様子見より排除を優先した」

「そう、今度からは撃つ前に報告してよね。驚いて危うく頭につららが刺さるところだったわ」

「気をつける」


実際、つららによる死亡事故もあるため、笑い事ではない。

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