あとになって分析されたこと
工場に着くまでに僕は手錠を外し、栄養ドリンクをゴクゴク飲んだ。
連合で出された食事は粥のみだったから、体力が落ちて仕方がなかったのだ。
さて、あとになってからマリナやトモヤ、マミなどを交えて話し合った結果、渋谷区連合はすでに崩壊して、別のグループが出来上がっているのではないかという説が浮上してきた。
現リーダーの名前をマリナに言うと、聞き覚えがないという。
外部から連合に与した者が反乱を起こしたか、それとも元からメンバーだったがマリナたちとは接点がなかったのか。
いずれにせよ渋谷区連合の危険度は増しているとみたほうがよさそうだ。
生存者を見つけたにもかかわらず、監禁して話しあおうともしないなんて正気ではない。
とんだ遠征になってしまった。
あとで眞鍋や中島に礼を言っておかなければ。
僕を救助するために結成された隊。
イワンに救いを求め、彼の人選で6人がより抜かれたという話だそうだ。
遠征中は工場、マンションともに防御が手薄になる。
そのためなるべく急いで駆けつけたというが、それでも一週間程度はかかった。
僕が窓際の部屋に移動した日と、イワンらが渋谷区についた日は同じだった。
なんという偶然。
自分のことを幸運と思ったことはないが、こればかりは運が良かった。
楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽
「普通、自衛隊と会ったら助けを求めたり、国内の状況を聞いたりするよな?」
僕は言った。
「そうね。自衛隊なら一般人も知らない情報を持っているだろうし」
マリナが言う。
「なのに奴らは聞いこなかった。まるで自衛隊なんて眼中にないみたいに」
「嘘だってバレてたんじゃない? ボロを出すのを待ってたとか。それより、あなたの救出作戦の指揮をとったのはイワンなんだから、あとでちゃんとお礼をするのよ」
「わかってるよ」
「本当に戻って来られてよかったわよ。あなたがいない数日間、ヒューイが東側に吠えてるのを見かけたわ。きっとヒューイも心配してたんでしょうね」
ヒューイ、やっぱりお前はグッボーイだ。
戻って来られたのは、偶然が重なった結果、最も都合よく事が運んだというだけだ。
こんな偶然はそう毎回起こらない。
射殺されていた可能性だったあるのだ。
もっと悪ければ、拷問され苦しみながら死ぬ。
皆には時期を見て伝えようと思ったが、あれはどう考えてもカルト集団だった。
渋谷区連合なんてものじゃない。
怪しげな儀式と、見張りの口から漏れた独特の国家論。
新たな勢力が、ここ東京で広まりつつある。
事態は悪くなる前に対処するべきだ。
悪魔だの神様だのとやるのは結構だが、僕たちからしたらゾンビだけで十分。
これ以上珍妙な輩が来ても、驚くどころか逆に笑ってしまうだろう。
「遅かったですね、もっと早く出てくるかと思いました」
と軽口を叩くかもしれない。
僕にとって、渋谷区連合に拉致されたのはここ最近では一番の出来事だった。
だからといって何だろう。
反省して、これからは周りに気をつけると気持ちを一新すればいいのか。
否である。
僕はこれからもバカをやり続ける。
それこそが僕の人生だからだ。
しかし今度のはさすがに死ぬかと思ったから、少し控える。
ビビっているわけではない。
気分転換のようなものだ。
笑いにも緩急が必要だから……。