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ミツメオオカミ

イワンは武器を貸したがらない。

玄人は自分の装備を人に貸すのを嫌がるという。

また借りるのも嫌がる。


手になじむ装備でなければいざというときに慌てるからだろうか。

無理を言って借りてきたPP-19 Bizonは、夜間の監視には大いに役立った。

車を停める位置で、開けた場所か一方通行の場所か最後まで悩んでいたが、結局ちょうどいいのが見つからなかったので、枯れた田んぼのど真ん中に停車していた。


夜になってからもう10体以上のゾンビが車に近寄ってきていた。

減音装置サプレッサーのついたPP-19 Bizonがなければ、対処に手こずっていただろう。

9x18mmマカロフ弾による射撃は、減音と暗闇が相まって非常に効果的だった。


ゾンビも夜には目が見えない。

もともとが人間の眼球なのだ。

死んでから夜目が効くようになるなど、ありえない。

加えて今夜は雲が出ているので、ベテルギウスの光の恩恵も受けられない。


その代わりに夜のゾンビは歩くスピードが若干早くなる。

といっても開けた場所なら、距離を詰められる前に対処できるが。


「音がまったくしませんね。サイレンサーってすごい」

マリナが言った。


「言うて短機関銃サブマシンガンだから。ライフルじゃこうはいかない」

9x19mmパラベラム弾とは勝手の違う弾に最初は手間取ったが、徐々に慣れてきた。


「次右です。小屋が建ってるあたり」


マリナが車内から指示を出す。


よく田んぼの横に用途不明の小屋が建っているが、何に使うのだろう。

農具などをしまっておくのだろうか。

それにしては軽トラに農具を積んで走っている様を見かける。

一体小屋に何が入っているのか、気になる。


「おっとまずい。オオカミだ」


ゾンビをパシパシ撃っている横から、オオカミが一匹現れた。

「私オオカミなんて始めてみましたよ」


「多摩動物公園から逃げたやつだろう。前にオランウータンやゴリラを見たことがある」

「逃げられてよかったですね。取り残されてたら餓死しちゃっただろうし」

「そうだな……チョット待てよ」


刺激しないように車内に隠れて、音を出さないようオオカミの姿を観察していたのだが、多摩動物公園にいるはずのタイリクオオカミの大きさを超えている。

そして額の真ん中に第三の眼がある。


ミツメオオカミは僕が撃ったゾンビの屍肉を漁っている。

相当腹が減っていたと見え、無我夢中でがっついている。

犬歯が鋭く、人間の肉体をバターのように噛みちぎっては咀嚼し呑み込む。


「目が三つってなんかダサいですね」

「まあ二つで十分だよな」


様々な異形と遭ってきたせいか、僕たちは三つ眼があるオオカミに対してはあまり驚かなかった。

通常のオオカミよりは大きいとはいえ、先刻のシシノケよりは小さい。

見たところ腹が減っているだけで襲ってくる気配はないようだし、体つきはイヌ科のそれだ。


「ヒューイを連れてこなくてよかったかもな。いたら吠えてたかもしれん」

「ヒューイはそんなにバカじゃないですよ」


ひとしきりゾンビを漁った後、ミツメオオカミは元来た方へ帰っていった。


「あ、左方向からゾンビ来てます」

「了解」


再びPP-19 Bizonを手にし、銃座に出る。

撃っているときに気づいたが、目が見えておらず発砲音も響いていないのに、なぜゾンビは道を外れて田んぼの真ん中にある車に近づいてくるのか。

それも一方向からではなく全方位から歩いてくる。


気にしたところでゾンビの数は減らない。

移動しようにもエンジンを掛ければ光と音にゾンビが集まってくる。

単調な作業に飽き飽きしながら射撃を続け、きっかり1時間30分交代で、僕は眠りについた。


次の日の朝聞いた話では、僕とマリナが監視しているとき以外で、ゾンビは現れなかったという。

交代するたび、マリナの指示で僕は銃座にあがった。

僕たちが眠ると同時にゾンビもいなくなり、そしてまた交代すると現れたということだ。


ゾンビの出現には何か規則性みたいなものがあるのだろうか。

翌朝、朝の運動で外に出て体操しているときに、ふと気になって車の下側を覗いてみた。

茶褐色の液体がベッタリと塗りたくられている。


「昨日のシシノケじゃないですか?」

聡志が歯磨きしながら言う。


何かを撒き散らしていたとは思ったが、このせいでゾンビが集まってきたと考えると、納得がいく。

不自然に田んぼ内を進んできたゾンビ。

しかしそれでも、僕とマリナが監視しているときだけに集まってきたことに説明がつかない。


眼が三つあるオオカミといい、不思議な夜だった。

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