新年あけましておめでとうございます
三が日が過ぎた後、イワンの引っ越しとカズヤ班設立は滞り無く行われた。
どちらかというと難儀したのは引越しのほうだ。
再びマンション内を調査し、敵がいないかどうかを確認する。
トラップをかいくぐったゾンビが数体紛れ込んでいただけだったが、駐屯地遠征の前に見かけた血痕を追っていくと、そこはもぬけの殻だった。
幹夫のときのように不意打ちを食らってはいけないと、それから数時間かけてマンション内をくまなく探したが、どこにも怪物の姿はなかった。
唯一の手がかりは、南側の外壁にべったりとついた血の跡。
血液が飛び散っている方向からすると、怪物は上階から下にずり落ちるようにして下ったらしい。
屋上から地上へまっすぐ、地上に血溜まりがなかったことを考えると、そこで血が止まったか、あるいは僕たちの知らない現象が起こり、霧のように消えてしまったか。
「本当にここでいいんだな。何かあればすぐに駆けつけるが、他の物件にする気はないのか」
「断定はできないが、大丈夫だろう。廊下も部屋も広々としていて、ゾンビがいればすぐにわかる。トラップも仕掛けておくから、事前連絡無しには入らないでくれよ。もしものときのために、非常口のブービートラップがある位置を書いたメモを渡しておく。外し方も明記してあるから、非常事態にはこれを見ながら来てくれ」
そんな事態は想像もしたくない。
イワンとユキが敵わなかった相手に、どう立ち向かえばいい?
「じゃあ俺達は行くよ。他に必要な物はないか?」
「十分だ。これからは食料調達も自分たちでやるから、俺達のことは気にしないでくれ。定時連絡は毎日二回。中島班と同じ時間で」
「気をつけて。Пока」
「Пока」
「必要な物資があればいつでも言ってくれ。定時連絡の時にでも」
「アイアイサー。食料調達は、こっちのぶんはこっちでやるから気にしないでくれ。くれぐれもブービートラップには気をつけるようにな。まったく、気の休まる時がない時代さ!」
イワンとユキの引っ越しはこうして完了した。
ずるずる引き伸ばしても仕方がなかったから、これがベストのタイミングだったのだろう。
クリスマス会では皆と親睦を深めたという話だ。(あとから鈴木に聞いた)
楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽
カズヤ班の設立は思っていたよりも楽に済んだ。
観測所はすでにゾンビの侵入を防ぐよう工夫されていて、彼らが住めるようにするためには、非常階段のどこか一つにあるバリケードを取り外すだけでよかった。
安全を考慮して、最上階に居を構えることになったとはいえ、彼らの荷物はそれほど多くない。
食料調達を自分たちでやるというイワンたちとは違い、カズヤ班は基本的に工場と連携して作戦にあたる。
旧観測所はこれからも使用し続けるが、カズヤ班から一人、工場か中島班から一人という人員でローテーションを組むことになった。
これならば各グループの負担も減る寸法だ。
どちらにせよ夜間監視は必須なので、カズヤ班は夜間任務に一人だけ送り出せばいいことになる。
彼らは僕たちの中で一番経験が浅く、また平均年齢も低いのを考えての取り決めである。
面倒だと思っていた仕事も、終わってしまえばどこか懐かしささえ感じられる。
さて、工場には再び最初のメンバーが残された。
しかし状況は当初とはまるで違う。
四カ所から街を監視しているのだ。
人数も増え、経験を積み、それなりに動けるようになったメンバーでは、できることの幅が格段に増した。
次なる計画は渋谷区連合の本格的捜査だ。
状況を確認し、渋谷区のほうが住みやすいということであれば、そちらに移住する選択肢もある。