サーターアンダギーで仲直り
調理場から香ばしい匂いがしてきたので、マミに何をつくっているのかと尋ねるた。
「サーターアンダギーよ」
彼女は答えた。
サーターアンダギーは沖縄のドーナツだ。
砂糖味のドーナツで、最初見た時に「ねじり菓子やん」と思ったのだが、ねじり菓子はご当地ネタらしい。
通常のレシピではドーナツに鶏卵を使うが、卵が手に入らない今は油で代用する。
要するにツナギとして機能すればなんでもいいのだ。
味付けが砂糖のみというのもイカしている。
僕たちが使えるのは砂糖くらいしかないからぴったりのお菓子だ。
薄力粉とベーキングパウダーを固めて揚げる。
出来上がったものをまずはイワンとユキに持っていく。
あの二人の胃袋が一番強靭そうなので、毒見役だ。
次々に揚がっていくサーターアンダギーを皆に配っていく。
僕とマミは最後に食べる。
「ドーナツなんて贅沢よね」
「うん、まさかここで食べられるとは思わなかった」
工場内に甘い香りが漂う。
前に作ったケーキよりも遥かに出来栄えがいい。
やはり料理は複雑でなければないほうが美味いのだ。
「天体戦士サンレッドで出てきて、そのうち食べたいなと思っていたけど、美味いもんだね」
「ホント、材料はあったんだから早く作ればよかったわ」
ふと更に違和感を覚え、他の人のと見比べた。
僕のサーターアンダギーが一個多い!
こっそりマミに訊くと
「隊長なんだから体力つけないと」
「マミ……ありがとう」
近頃まとわりついていた寂しさが吹き飛んだ。
お菓子を食べて仲直りである。
「ところでさ、僕の名前って言える?」
「名前? 武田龍太郎でしょ」
「マミ……ありがとう」
「どうしたのよ急に」
それから全員に僕の名前を言えるか質問したが、答えられたのはマミだけだった。
これこそが本当のコミュニケーションだ!
楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽楽
クリスマスが間近に迫った今、僕たちは非常に忙しい日々を送っていた。
年が明ける前に、積雪に備えた道具を揃えなければならない。
在庫として店の裏にあった防寒具や、ストーブといった電化製品に比べて、雪かき用の道具はなかなか見つからずに苦労した。
細々したものは時期になったら仕入れればいいという店の方針のためか、難店舗回っても置いていない。
中島班と工場、それからイワンたちの分、新設するカズヤ班の4セット揃えるのに、結局三日もかかった。
イワンの引っ越しは、三が日が過ぎた4日に行われることになった。
前回の反省から、万全の体制で臨む。
イワンはクリスマスにはあまり興味をしめさなかった。
ロシアでは新年のほうが大事だという。
それでもユキにせがまれてプレゼントを見繕いに出て行った。
護衛に人数を揃えようかと訊くと、別にいいと言われた。
愛する妻へのプレゼントは、一人でじっくり選びたいというわけだ。
いろいろあった今年も、残り僅か。
我ながらよく生きながらえたものだと思う。
最後のほうで少し雲行きが怪しくなったけれども、無事仲直りして、仲良くサーターアンダギーも食べた。
それにしても、年越し間際になると年越しの感覚が全然なくなるのに、クリスマス前の時期や年が明けてから「年を越す」感覚が強まるのはなぜだろう。
長年疑問だった現象が今年もまたやってきた。
「クリスマスは肉が食いてえよお」
田中がつぶやいた。
気持ちはわかる。
みんな声に出さないようにして、意識から遠ざけているのだ。
バリエーションが豊富な缶詰で、食の楽しみをなんとか維持できているとはいえ、BBQ以来肉を食えていない。
「肉、やっぱり肉だよなぁ」
「どっかに落ちてないかしら、肉」
「野生の豚とかいないんすかね」
動物園の動物が徘徊しているくらいだから、豚や牛がうろついていないとも限らない。
しかし誰も一度も見ていないという。
わざわざ豚を探しに遠征する?
リターンが確実でないので及び腰になってしまう。
「ヘイ! お土産拾ったよ」
そんなとき、僕たちの前に救世主が現れた。
イワンが二匹のニワトリを両手にぶら下げている。
一瞬で彼の言わんとしていることを悟った全員は、手近にあった道具でケージをこしらえた。
その間3分もかからなかったと思う。
これならみんな立派な大工になれるだろう。
ケージに入れられたニワトリを見て、僕は思った。




