絶望の淵に沈みながら野菜に水をやる
畑には今、ルッコラやカブが植わっている。
冬でも野菜は育つ。
土質の良さは収穫の時に証明済みだ。
田中が聴かせた歌の効果があったのかどうかは不明だが、とりあえず美味しい野菜が育った。
この調子であればまた春頃に収穫できるだろう。
人数が増えたので畑の面積は拡張され、現在は敷地の外にまではみ出している。
人力でアスファルトを剥がすのは一苦労だった。
いじめられている僕は悲しみに沈んでいた。
おっぱいを揉ませてくれと頼んでから、僕への扱いはますます悪くなった。
当然といえは当然だが、何もそこまでしなくてもいいだろう。
水やり中の護衛にマミがついてきてくれている。
しかし会話はない。
会話が無い!
工場の方から阿澄が走ってきて、マミと何やら内密の話をして去っていった。
おおかた「ニッカポッカ女子会」の打ち合わせだろう。
彼女たちは月に二度ほど、中島班のマンションで女だけの会を開いている。
水をやるふりをして盗み見しているのがバレた。
マミが怖い顔で近寄ってくる。
もう僕のライフはゼロだというのに、まだ攻撃をしようというのか。
「ハァ、あなた最近おかしいんじゃないの? もうちょっとちゃんとしなさいよ」
「ごめんね」
マミのため息が僕の心に刺さる。
痛い。
「阿澄が言ってきたのよ。可哀想だから自分の胸なら触らせてもいいって」
それは願ってもない話だが、なぜ阿澄がそのことを知っている?
二人のおっぱいを揉みたいと言ったのに全員からシカトされるのはおかしいと思っていたが、女子力の拡散おそるべし。
無かったことも加えて広めているのではあるまいな。
「自分の立場ってものを少しは考えなさい。梓ちゃんなんか真っ青な顔で私に謝ってきたのよ。断ったから変なことはしてませんって、私がいいよって言っても謝り続けたわ。ちょっと聞いてんの?」
「ごめんちゃい」
スターフォックス64のネタ台詞で誤魔化そうとした。
「ふざけないで! なんでそんなに触りたいわけ?」
「なァに他愛ないことよ。夜な夜な倅が嘶きおってな。ここはひとつ乳房でも揉んで昂ぶり鎮めようとしたまでのこと。妙案閃いたと思い即座に実行したが、その実愚案であったか。ハ、ハ、ハ!」
やけくそである。
「まったく……二人だけのときに触らせてあげるから、他の人に迷惑かけるのはやめなさい」
「えっ、マジで?」
「少しは自分を律しなさいよね。女子は女子で溜まってるんだから、みんながあなたみたいに好き勝手やったらどうなるのよ。リーダーならお手本になれるよう気をつけなきゃ」
「ごめんね。どうかしていたよ」
マミの言ったことは正しかった。
未成年も多くいる手前、リーダーである僕がこんな態度では示しが付かない。
最近どうも夜に滾ってしまって眠れないな、と思って、こんな行動に出てしまった。
穴があったら入りたいとはこのことだ。
「これからは気をつける。努力して自分を律するよ。今は二人だけだから揉んでおくね」
その瞬間、彼女の平手が僕の頬を直撃した。
「バカ! 二階から畑が見えるように、って広げたのはあなたでしょうが。上から見てるでしょ」
彼女が言った方向に目をやると、気まずそうな顔をしたマリナが手を振っていた。
僕はまたヘマをやらかしてしまったらしい。
せっかくの機会も棒に振って、情けない限りだ。