4話 学院
聖魔術学院。
自分はその学院の最上階、院長室にいる。
「シノ・テンパランス三等生。バディは一等生デプス・ノープス。ペナルティ三点。非常に類稀な魔力の性質を有しているため入院。院歴二年目。成績は平均やや上。
合っているかね?」
「ええ、相違なく」
目の前の書類を読み上げた人物、彼が院長だという。
意外と若い。三十代くらいだろうか。
「君は昨夜、突然この学院から消えた。これは監視塔の記録を確認してわかったことだ。
しかしなぜ瞬間移動でもしたかのような記録があるのか、非常に興味深い」
「……そうですか」
「とぼけるのはそこまでにしてもらおうか。転移魔術は禁忌認定されているんだぞ」
さて、どうしたものだろうか。
実際に使ったのは転移ではなく身体強化なのだが。
木の上や屋根を走っていったから人目もなかったはずだ。
音速一歩手前の速度だったし。
「転移魔術は使っていません。監視塔では、学院内で使用された魔術の痕跡を記録されているはずです。調べていただければわかります」
「監視塔の目をすり抜けたのならば記録は残らん。人の手によって記録されているものだからこそ、穴がある。業腹だがな」
次は記録されていないときたか。
痕跡記録は人の手によって行われている。眠気で気が抜ける朝方に脱走したのが悪かったか?
相手は幸いにもここらで貴族につぐ権力者だ、ここは自分を売り込んでみるか。
「そういえば新しい魔術を開発したんですよ」
「何を言って……ッ⁉」
体を覆う魔力に気付いたのか、院長が後ずさる。
「そう焦らないでください。害あるものではありません。……《金成りて輝く我が色》」
手を差し出す。
漲る魔力は差し出した手のひらで丸く、宙に浮く。
凝縮された魔力が渦巻き、部屋全体が黄金色の光に照らされる。
「まさかこれは、そんな馬鹿な!」
「そう、これは金を作る魔術です」
魔力が形成され、物体となり浮力を失う。
そこには数センチほどだが、確かに金があった。
「もちろん術式は後でお教えしますよ。ですが条件があります」
「その金を見せなさい……確かに解析魔法でも純金と出ているな。よかろう、どんな条件でも呑もう」
思わずニヤリと笑う。
この魔術もデメリットをまだ教えていないから、俺の一人勝ちだ。
「では……自由をください」
ここから始めよう。