3話 逮捕
目を覆っていた腕を降ろした。まだ視界がチカチカと点滅している。
記憶はどうやら死んだようだ。影も形もない。
「ん?」
記憶が浮いていた場所に、光る何かが落ちていた。
透明な石……クリスタルのようなものだ。
屈んで片手で掴むと、頭が割れそうになった。
右腕を伝って脳内に何かが流れ込んでくる。
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「お父さん。人は死ぬとどうなるの?」
「お母さんに聞きなさい」
「お母さん。人は死ぬとどうなるの?」
「お父さんに聞きなさい」
小学校に入る前までの記憶が、浮かんでは消えていく。
母と父にはあまり構ってもらえなかった時の感情が胸に刺さる。
最後に浮かんだのは、ボールを追いかけて道路に飛び出した時に横からトラックが突っ込んできている光景だった。
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「大丈夫か!」
「いえ、少し眩暈がしただけです」
「そうか……」
無理やり体を起こすと、まだふらついた。
慌てて支えてくれるのが、ありがたい。
「さあ劣等生、教えてもらおうか」
「何をです?」
「なぜ学院から去ったのか、だな。突然消えたので監視塔の連中が機器の故障かと思ったようだぞ」
これは拙い。
制服を着ているから、まさかとは思っていたが学院の者か。
追及されると面倒だし、なんとかして逃げなければ…………
「ん?」
何か手首のあたりに嵌ったと思い、視線を下げた。
女性の手首と繋がるようにして、手錠が掛けられていた。
「さあ、来てもらおうか。逃げようなんて気は起こすんじゃないぞ。私はこれでも特等だ、逃げ切れると思うな」
「あ、えっと、その」
本当に拙い。
記憶探しの旅は半日で終わってしまうのか。
いや待て、逆に考えよう。
神に授けられた力があるのだから、学院で良い成績を叩き出して地位を手に入れれば記憶探しも楽になると。権力もそれなりに手に入るだろうし、多忙になっても人を使えばいいだけだろう。
よし決めたそうしよう。
「……お手柔らかにお願いします」
「ははっ、そう固くなるな。馬車の乗り心地は悪いのが玉に瑕だが、すぐに戻れるさ」