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贖罪のテンパランス  作者: FIIFII
プロローグ
3/6

1話 転生

「行ってしまわれましたね」


 召使い、アールと呼ばれていた女性が呟いた。


「……あいつは特殊なんだ」

「え?」

「生前で何もかも奪われて死んで、地獄に来てまで奪われるなんて不自然すぎるだろ」

「言われてみれば、そうですね」


 顔にかかる髪を払ってから、顎に手を当て感嘆の息を漏らす。


「いるんだよ。生まれもって不幸な奴が。そしてバランスをとるようにして、幸運な奴もいる。

 まあ、その幸運な奴ってのが俺みたいな神なんだけどな。……もういいだろ、その服脱げよ」

「貴方はいつまで経っても人みたいですからね」


 アールがメイド服を脱ぐ。

 そして現れたのは、背に生えた翼だった。


「俺は俺だよ。アールはアールだろう?」

「まったくもってその通り」

「俺たちは幸運で、あいつは不幸だった。人ってのはいつも運命に縛られる」

「そしてその運命から逃れられるかは……」

「あいつ次第ってことだ。好機(チャンス)はやったんだ。うまいこと足掻いてくれよ」




 ===




「おい、シノ。起きろ! 起きろって!」

「……ん?」

「ん? じゃねぇだろ。デュガリーの野郎が来る前に起きなきゃ今度こそペナルティだぞ!

 わかったら布団から出ろ!」


 意識がハッキリしてきた。

 そうだ、確か神にゲームを挑まれて、どこかの世界へと送られたんだった。


「早く行くぞ。俺まで巻き込まれたらどう責任取るっていうんだ」


 とにかく、今は自身の状況を理解しないと。

 何も知らないと何もできない。




 ===




 聖魔術学院。

 伝統ある由緒正しき魔術を研究し、その成果を発表して今までにいくつもの偉業を成し遂げてきた天才が輩出してきた学院である。

 この施設では若い魔術師の育成に力を入れており、学院生の数は合計で千を超える。

 学年のような序列があり、成果が高ければ高いほど等が上がっていくシステム。

 自分はその学院の三等だそうだ。


 特等、一等、二等と続き、八等まである。

 そこそこ優秀な方なのだろう。


 なのだろう、というのは……まあ直球に表すとこの体の持ち主、シノ・テンパランスに憑依してしまったのだ。

 そして同部屋にいて、自分を起こした人物。彼はデプス・ノープス。

 この男が自分の相棒バディだという。


 学院はバディシステムというものを採用していて、等級関係なくタッグを組んで共に学ぶことができるというもの。

 下等は予習、上等は復習ができる。偶に下等生が復讐をしたりするらしいが、稀なケースだろう。

 ちなみにデプスは一等だそうだ。


 なお、ここまでの情報は胸ポケットの手帳に記されていた。

 異世界でも文字が問題なく読めるあたり、神が手を加えたのだろう。

 その証拠に、手帳にはデフォルメされた神のイラストが描かれている。一言コメントとして「頑張ってネ☆」ともある。

 この世界では≪タナカ・タロー≫という神で、地球でいうキリスト教並みの信仰があるらしい。



「おい何してんだ。授業だぞ」


 この学院の食堂の定食は……下手すると三ツ星レストラン並みの味だ。食べたことはないが。

 ゆっくり食べ進んでいると、注意されてしまった。


「わかった」


 スープを掻き込むと、盆を返して教室へ向かう。

 廊下では魔術談義を話す講師と院生の姿がよく見られた。




 ===




「本日の授業は、魔力の陽性と陰性の区別。そしてそれを分別する方法についてだ。教科書の145Pを……」


 ちなみに魔術知識だが、あらゆる知識が憑依の際に授けられた。絶対に神のせいだ。

 そのおかげで、授業は聞き流しているだけで事足りる。単位は必要だから受けなくてはいけない。

 面倒だ。


「シノ、今日は質問ないのか?」

「ない」


 バディシステムのデメリットとして、双方が揃って授業に出なくては単位がもらえない。

 わからない点を聞くことができるからだ。

 だが自分には既に講師を越える知識がある。

 今後の事を考えると、この学院を出ていかなければならない。

 記憶を取り戻すために転生してきたのだから。


「デプス」

「なんだ」

「後で話がある」

「……なんなんだよ。水臭い」

「夜に話す」


 今言うわけにはいかない。

 バディを解散しようだなんて。

 どうしてもデプスは、今後邪魔になる。

 今のうちに離縁を申し込まなければ。


「夜か、いいぜ」


 なぜこの男は笑っているんだろうか。

 理解できない。




 ===




 夜になった。

 院生は全員寮へと戻る時間だ。

 消灯まであと少しという頃。



「で、シノ。話ってのは?」


 そっちから切り出したか。

 都合がいい。


「別れよう」

「は?」


 口をぽかんと開けている。

 虫が入るぞ。


「な、なんでだよ」

「ここから出る」

「学院から出る? ……冗談キツイぞ。おい。なんだってそうなった」

「ここにいても得られるものはない」

「は?」

「……おやすみ」



 丁度消灯だ。明かりが消された時には、二段ベッドの上へと潜り込んでいた。

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