プロローグ
世界を変えるのは簡単なことじゃなかった。
血の滲むような……というか現に自らの腕には血が滲んでいる。
努力とか才能とか関係ない世界を作ろうとして、結果どうにもならなくて、失望されて、蹴落とされて、地位も金も持ち物全て余すとこなく奪われて行き着いた先が地獄だった。
罪状は『世界創造を行おうとした罪』。
いいことと悪いことなんて、神が決めていても人は知らない。
そう言っても決まりは決まり、だと言うだけの地獄の鬼には何も届かなかった。
地獄の釜は皮膚を溶かし、肉を溶かし、眼玉を溶かして釜の中身と混じりあう。
延々と繰り返されるその地獄を、今にも壊れそうな精神でじっと耐えていた。
周囲のお仲間……地獄に放り込まれた人は次々と精神崩壊を起こして処分されていく。
ただただ、耐えて堪えて息絶えそうになりながら待っていた。
「ほー、お前さんが待っている奴かい?」
声が聞こえた。
朦朧とした意識の中で、しんと澄み渡る声だった。
「そろそろ風呂から上がりな。のぼせちまうだろ」
快活に笑う童子は、自分の手を引いた。
地獄の従業員である鬼たちは業務を放り出して、この童子に平服していた。
そうか、この童子が……。
「まあ来いよ。冷たい飲み物を用意してある。なんならアイスクリームでも用意してやろうか?」
遠慮無くがっつかせもらうこととしよう。
なんせ神だ、どんな物でも、いくらでも湧いて出てくることだろう。