第6話
あれから2日後、リリが風邪をこじらせてしまい体調があまり優れないという事で今まで一度も欠かした事がなかった農作業を今日だけは休日にさせた。
リリは働くと言って聞かなかったが風邪の恐ろしさを十分に言い聞かせ、半ば無理矢理に休んでもらったと言ったほうが正しいだろうか?
たかが風邪、と思うかもしれないが風邪も立派な病だ。
不衛生な戦場で病に冒されるというのはすなわち死を意味する。
どうやらこの世界は外傷ならば魔法である程度は治療できるらしいが、体の中の不具合に対応する術がまるでない。
つまり戦場と大した差はない、油断は死を招く、用心するに超したことはないのだ。
彼女の両親が遺していったものだと思うが、リリの家には本がかなり多い。
まずは情報を収集したい俺にとってはもってこいな状況である。
その為彼女の看病の合間を縫うように本を読み漁った。
まずはこの世界についての幅広い情報を集め、私がこの世界に飛ばされた原因を突き止める。
現状に流されるのは俺の趣味じゃない。
「何読んでるの?」
あれから何時間読み耽っていただろうかという頃、新しい本を開いた瞬間、不意に隣からした声に驚いて俺は顔を見上げる。
リリの顔が俺の隣にある、数㎝動けばキスできそうなくらいに。
俺は思春期男子特有の女子に対するときめきを感じた様な気がした。
何という事だ、肉体だけでなく精神まで若返ったというのか……素晴らしい、実に素晴らしいッ!
「あ、ああ……これは隣国について書かれてる書物だ。
それにしても体は大丈夫なのか?」
「うん、ハルトが出してくれた風邪薬がよく効いたみたいで今は平気だよ。
でも隣国……と言えばブロードダム公国とか言ったっけ。
あんまり良い噂の無い国だよね。」
「へえ、例えばどんな噂が?」
隣国の事本を読むよりもリリに聞いた方が早い気がしたので、病み上がりで申し訳なかったが詳しく教えて貰う事にした。
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リリに説明してもらったところ、ブロードダム公国とは元世界で言うポーランドの辺りに位置する絶対君主制国家らしい。
この世界でもかなり昔に廃止が進んだ奴隷階級制に固執しており、経済力や労働力を奴隷で賄い、軍事力を中層階級で埋めてクーデターの起こりにくい環境を作り、奴隷が足りなくなった場合は周囲の小国に侵攻したり恫喝したりして奴隷用の一般人を仕入れているというヘドが出る様な国だ。
俺達がいるゲレーシュト帝国はブロードダム王国と国力も互角程度という事もあり、国境付近で小競り合いなどは頻発しているものの、ブロードダム王国も下手な脅しはかけてきていないらしい。
わざわざこんな国の隣に俺が転生してきたのも、前世界での強力な兵器を生み出せる能力を得たのも何らかの意味があるだろう。
この腐った世界を滅ぼす魔王となる為か、はたまた民衆に力を授けて自由を与える為か。
俺個人としては後者を選びたい。
しかし漠然としながらも俺の将来的な目標はこの時決まった。
この隣国の民を自由へと導く。
全く、前世界では無名将校だった俺が英雄を目指すとは、人生何があるか分からない物だ。




