第3話
リリは一通り俺に話した後は何だか落ち込んだように俯いてしまった。
俺は彼女の話を聞き、怒りを感じるというよりも愕然とした。
それがあまりにも理不尽な内容だったからだ。
簡単に言うとあの二人組はこの辺りでは有名な詐欺師で、定期的に来てはリリの両親に借金があったというヨタ話を大義名分に畑と家を明け渡せ要求しているらしい。
最初こそ物腰は柔らかかったようだが、リリが何度も断るにつれて脅し紛い
の要求となり、最近では痺れを切らして暴力も行っているらしい。
何故村の人々に助けを求めないのかとも聞いてみたが、二人組は盗賊団に加入しており、報復を恐れて何も出来ないそうだ。
しかもこの世界では司法制度もほとんど整っておらず、悪党は蔓延るばかりだという。
「でももうどうしようもないよ、本当にこのお家と畑を手放すしかないかも……」
「はあ?リリは悪くないんだから手放す必要なんてねえだろ」
「だけど殺されちゃうかもしれないんだよ?」
俯いていたリリがぽつりと口を開いた。
そこにはいつもの様に活発な少女の面影はない、当然と言えば当然だ、大きな力の差がある相手に容赦ない暴力と悪意を向けられたのだから。
此所で俺の中で沸々と怒りが込み上げてくる、暴力を向けてくる相手には暴力で対抗するしかない。
これは戦争の縮図、しかし正当な防衛戦闘にあたる、批判する者などいないだろう。
「分かった、じゃあ俺がこの家とリリを守る。
それなら万事OKだろう?」
「ええっ!?ハルトには無理だよっ、危ない事はやめよう?」
「見くびり過ぎだ、まあ見ていてくれ」
リリの目には俺が頼りないモヤシにしか見えていない様だが、こう見えて元世界では軍人、謂わば戦争屋。
数多くの戦場を目の当たりにし、実際に銃をとった数も数えきれない程。
小悪党二人組を蜂の巣にするなんて造作もない事だ。
リリには恩がある、これで返しきれるとは思わないがささやかな感謝を示さねばならない。
しかしその為にはまず武器が必要不可欠だ。
腰のPPKだけでは不安が残った俺はリリと話をした日の夜、早速新兵器を作った。
元世界では電撃戦の主役となっていた兵器、“MP40短機関銃”だ。
これは俗に言うサブマシンガンやマシンピストルと呼ばれる種の銃であり、9mmパラベラム弾32発が装填可能であり、1秒につき8発発砲できる謂わば鉛弾のシャワーだ。
そして俺は翌日の朝、近代兵器についてリリに話す事にして眠りにつくことにした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「なあリリ、見せたいものがあるんだが」
「どうしたの、変な物持って……」
朝食を終えた後、農具小屋で道具手入れするリリに話しかけてみる、すると彼女は俺のMP40を見るなり“変な物”扱いし始めたことからして、やはりこの世界ではまだ銃が発明されていない様だ。
銃がどういう道具か口で説明しようかとも考えたが、やはり実際の威力を見て貰った方が分かりやすいだろう。
しかし流石に村内で銃をぶっ放すのは騒ぎになりかねない、場所を変えなければ……
「とにかく着いてきてくれ、きっと驚くと思うぞ」
「んー、早く作業に入りたいけどちょっとだけなら……」
彼女の了承を得た俺は、取り敢え最初に俺が目を覚ました草原まで連れてくることにした。
流石に此処ならば大丈夫な筈。
的は……あの枯れ木で良いだろう。
「あの枯れ木を見ててくれ、あと一応耳を塞いでおいた方が良いな」
「……?」
相変わらずリリは俺が何をするか分からないと言った様子だが、彼女が耳を塞いだのを確認した後、しっかり腰だめで構え、9mmパラベラム弾32発をフルオートで10m先の枯れ木に容赦なくぶち込んだ。
直径50cmに満たない太さの枯れ木はミシミシと軋みながらゆっくりとちぎれ、残ったのは切り株だけになる。
リリは唖然とした様な表情で俺の顔を見つめている。
何が起こったのか分かっていないのだろう。
「これは銃という道具で、火薬という物質がこもった筒をこの中で爆発させ、鉄の粒を遠くに飛ばして攻撃する兵器だ。
俺は今回コイツであの二人組と戦う。
これを見てもまだ不安か?」
「ふ、不安はないけど……それを人に使うつもりなの?」
「ああ、そうだ。
リリは優しいから酷いと思うかもしれないが、力で向かってくる相手は更に大きな力でねじ伏せるしかない。
それにこんな事でしか俺はリリに借りを返せねえしな」
それにしても彼女は優しい。
この後に及んで敵の心配をするとは……
「うん……ハルトが言うなら……」
何だか腑に落ちない様子のリリだが、まず俺の想いは理解してくれたようだ。
後は二人組がまた現れるのを待つだけとなった。




